海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶ2010年代ベスト・ソング200 Part 32: 45位〜41位

Part 31: 50位〜46位

45. Robyn: “Call Your Girlfriend” (2010)

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“Call Your Girlfriend” ほど棘が多くやっかいなシナリオの中で踊り切ることができるのは、スウェーデンの大人気ティーン・ポップ歌手から自己決定権を持ったスーパースターへと転身したRobynだけである。このなかで彼女が演じるのは、既に他の誰かと結ばれている人と隠れて逢瀬を重ねる女性である。しかし彼女の演じる登場人物はその問題となっているガールフレンドに対して一切の恨みを見せない。それどころか、彼女はその恋人に相手の女性と別れる方法を丁寧に指導し、彼女の気持ちに寄り添うよう促している。コーラスでの爆発が “Call Your Girlfriend” をダンス・ポップとしての成功へと導いている。多幸感溢れる解放に向けて弧を描いていくRobynお得意の手法だ。しかしギラギラとしたプロダクションは歌詞の不吉なナラティブを深める一方だ:「そして今、私とあなたの二人になる」とRobynは締めくくる。その思い通りに操った男を腕の中に抱きしめて。それは企みかもしれないが、彼女と一緒になって喜ばずにはいられまい。–Sasha Geffen

44. Big Thief: “Mary” (2017)

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Big Thiefのブレイクスルー作『Capacity』の感情的な中核をなすこの “Mary“ は、深夜にふける空想という体をなしている。バンド・リーダーのAdrianne Lenkerの声はまるで誰かを起こさないようにするかのように、静かで口ごもるようであり、時の経過とともに老化し奇妙な輪郭を持つようになった個人的な思い出が入った箱をじっくりと見つめている。安心感のあるオルガンとピアノによる背景の上で、彼女の声は力を増し、イメージの洪水の中で押し流され、言葉はとても鮮明で、リスナーの手の中で小さく怯えた小鳥のように鼓動しているのが感じられるほどである。これは喪失の感覚を湛えたノスタルジックな曲であるが、共感の奔流が押し寄せる高揚感、そして全てが一気にやってくるような崇高な感覚も感じさせるのである。–Philip Sherburne

43. Lorde: “The Louvre” (2017)

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Lordeは口を歪めて笑うような、そんなロマンチシズムの持ち主である。彼女は生物の授業でのカエルのように愛というものを解剖し、同時にその呪文をかけられてもいる。“The Louvre” はそのようなモードであり、一陣の風のようなひと夏の恋を物語っている。それは、彼女を内部から燃え上がらせるようなものなのだ。曲が始まると、まるで彼女は子供部屋でスケッチを書いているかのように、彼女の声はかろうじて囁き以上のそれであり、ゴロゴロと鳴る、ミュートされたコードにぶら下がる。強烈なほどに肉体的なつながりは何かより深遠なものへと落ち着き、やがて彼女の表面にひびが入るほど、その愛と格闘しているのが聞こえてくるだろう。彼女がそのガードをおろし、愛というものの超自然的な栄光を抱きしめるとき、それは凍った湖に浸るような爽快感をもたらしてくれる。“The Louvre” は彼女の2017年作『Melodrama』の中でもとりわけメロディックであったり爆発的な曲であるというわけではないが、Lordeの驚異的な才能を最も明確に伝えてくれる1曲だ。彼女は誰もが知っているような感情をとてつもなくレッシュなものに作り変え、まるでそれを初めて経験するような気持ちにさせてくれるのだ。–Jamieson Cox

42. SZA: “The Weekend” (2017)

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SZAは、自分が現在進行形で臆面もなく向こう見ずな決断に流されてしまう姿を披露することで、新たな恋多き世代を魅惑した。彼女のデビュー・アルバム『CTRL』に収められた “The Weekend” はパートナー感の合意を、その主導権を握っていない「もうひとりの女性」側の視点から歌う。ガールフレンドが男とありふれた時間を過ごす一方で、SZAのキャラクターは週末、彼のストレスを吸収し、支配し、「どうにかしてしまう」のである。SZAの歌唱はこの取り決めの持つ全ての多幸感と不安感を伝えている:彼女は欲望というものを複数の人間の間でかわされる決済として提示し、欲を満たすことが大好きでありながら、恋愛関係の中で独占欲を持つことは掴みどころのないことであるということも知っているという確信を持って歌っている。受け入れられているという感覚、悲しみ、そして希望といったものの影が彼女の声にはあり、それがムーディーで滴るようにスロウなテンポの上で揺れている。それが “The Weekend” に醒めた側面を与えている――気持ちよくさせるというサーヴィスを提供することは感謝されない行動であり、彼女はそれ以上を求めているという自覚があるという感覚が、この曲にはある。–Clover Hope

41. Courtney Barnett: “Avant Gardener” (2013)

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Courtney Barnettをインディー・ロック・スターにしたこの曲には、文字通り行ができないことの緊張感についての、驚くほど事細かなナラティヴが含まれている。この中で、彼女は庭に向かい、ご近所さんと野菜について軽く会話を交わしたのち、初めてのウィードを吸いすぐさま喘息の発作を起こしてしまう。“Avant Gardener” は気だるさを持った曲で、Barnettの歌い方は無表情である。しかし彼女の観察の中に宿る不安が曲全体に爪を噛むような強烈さを残している。誰かが救急車を呼ぶが、それについて彼女が最初考えたのはそれはいったいいくらかかるものなのだろうということだった。彼女はアドレナリン注射を受け、すぐさま『パルプ・フィクション』の瀕死のウマ・サーマンのことを思い出している。彼女の1日が軌道から外れていくのを見ながら、彼女はシンプルかつ深遠な7語のコーラスでこの曲を着地させる。「わたし、息を吸うのがそれほど得意じゃないの」。–Evan Minsker

Part 33: 40位〜36位