海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

<Bandcamp Album of the Day>Aquiles Navarro & Tcheser Holmes, “Heritage of the Invisible II”

2015年、ポリス・ブルータリティに抗議する集会のあとに結成され、批評的にも成功を収めた解放運動ジャズ・クインテットIrreversible Entanglementsを聴いたことがある人なら、トランペッター=Aquiles Navarroとドラマー=Tceser Holmesの演奏を耳にしているはずだ。2人の激しく泣き叫ぶような演奏と駆動力のあるパーカッションはバンドの怒気のあるサウンドに一役買っている。ベーシスト=Luke Stewart、サックス奏者=Keir Neuringer、そしてボーカリスト=Camae Ayewa(Moor Motherとしてソロ作品も発表している)と共に、NavarroとHolmesは彼らの楽器を法執行機関、資本主義、レイシズム、そしてアメリカの政治のような激しさで打ち鳴らしている。2人の新作『Heritage of the Invisible II』ははっきりと政治的ではないが、ラテン〜アフロ・カリビアンからの影響を入り組んだドラムとブラスのアレンジを通じて表現した革命的なアルバムである。

Irreversible Entanglementsの他のメンバーと出会うよりもずっと前、NavarroとHolmesはデュオとして活動していて、ニューヨーク中の様々なクラブで創造的なシナジーを育て上げていった。2014年のファースト・アルバム『Heritage of the Invisible』はパナマで録音され、こっそりとBandcampにアップロードされた。彼らの音楽はくだけていて即興で演奏されている。NavarroとHolmesは伝統的な楽曲構造を完全に捨ててギガに臨んだのかのようだ。その続編である本作も同様に一筆書きであり、ダンス、ジャズ、前衛音楽をミックスすることで前作の視野を広げることに成功している。矢のようなシンセと情け容赦ないリズムを通じて、この作品は一つのジャンルにこだわることなく過去と現在を信奉している。

 『Heritage of the Invisible II』は前作よりも力強い。素早いドラムと時たま吹くトランペットの突風によって “Initial Meditation”、“Father”、そして “NAVARROHOLMES” といった曲はインダストリアル・ロックの作品のような沸き立つほどの強烈さを展開している。もっと祝祭的な楽曲もある:“Pueblo” はうだるようなトランペットのコードも相まって散歩をするようなラテン的なグルーヴがあり、“A Night in NY” はツーステップ的なビートから発狂したようなドラム・ブレイクになだれ込んでいく。全く異なる2つの文化に敬意を評した大胆なアルバム『Heritage of the Invisible II』の強みはそこにこそ宿っている。これほどまでに勇敢な作品をリリースするということもまた、プロテストのいち形態なのである。

By Marcus J. Moore · October 21, 2020

daily.bandcamp.com