<Pitchfork和訳>Black Thought: Streams of Thought, Vol. 3: Cane & Able EP
点数:6.9
評者:Stephen Kearse
The Rootsの長いキャリアの中でも最も鳥肌ものの瞬間の一つが、Black Thoughtのラップの筋肉をこれでもかと見せつける “75 Bars (Black's reconstruction)” である。彼の熱のある長いヴァースはあるで不時着のような衝撃で、一つ一つの単語に炎がともっている。The Rootsの最後の作品以来この6年間、Black Thoughtはその “75小節” の強烈さを名刺代わりにして、様々なフリースタイルやゲスト参加を運動競技的な出来事に変えてしまった。『Streams of Thought Vol. 3: Cane and Able』はその伝統を引き継ぎつつもそこから脱却しようともしている。
この作品も第1弾、第2弾において確立されたフォーマットに大きく則っていて、構成よりも形式のないエネルギーに重きが置かれている。大体半分の曲は濃密で曲がりくねった一つのヴァースのみで構成されている。そしてこのEPにおいてもまた、一人のメイン・プロデューサーとともに作業していくというThoughtのいつものやり方が貫かれている。9th Wonder、Slaam Remiに続いて今回彼が手を組んだのはBad Boyのプロデューサー集団=The Hitmenの一員であるSeac Cである。彼が作る手触りのよく、それでいて出しゃばり過ぎないビートはその上でBlack Thoughtが声を出して考えられるようなキャンヴァスとなっている。
彼の心の中には大量に言いたいことがある。個人的な人間関係、彼のレガシー、そして人種が彼がよく用いる話題であり、それらが素早く切り替わっていく。彼の作詞は近頃これ見よがしに飾り立てたものになっていて、時にその鋭さを打ち消してしまっていることがある。この傾向によって彼がフィラーを用いる回数も多くなっている。例えば “State Prisoner” で「ラップ・ゴッド」風にラップする以下の箇所:「最後に誤解を解いておきたい/今お前が耳にしているアーティストが人間だという噂は?」。同じように、“Thought vs Everybody” は彼が玉座に座っているところから始まり(これは最近彼のイメージとして繰り返し用いられている)、偉大さというテーマをやりすぎなくらいにラップしていく。「俺は新聞の記事か?それともジャーナリストか?草食の永遠主義者だ/オリンピックのトーナメントレベルの天才作詞家である、そう断言する」と彼はラップする。彼は全能の神というよりは単にブリっているだけに聞こえる。
離れ業のようなリリシズムが内省という主題に対して脇役的に作用するとき、この作品は非常に興味深いものとなる。“We Could Be Good (United)” では彼の結婚生活を顕微鏡で拡大し、The Rootsの過密なスケジュールがその関係性にのしかかっていることを認めている。 “Magnificent” はいわゆる「身の上話」的なもので、死すべき運命にある存在から神的なものへと昇華していく過程を描いている。ヒップホップを通じて薬物中毒や自傷行為をやめ誇りを持っていくようになっていったことを、彼はDetroit RedやLeRoi JonesがMaik el-Shabazz and Amiri Barakaに変身を遂げたこととつなげて振り返っている。Portugal The Man、The Last Artful, Dodgrとの地味なコラボレーション “Nature Of the Beast” で彼は疎外感とステージに立つことの恐怖について繊細に歌っていて、珍しく脆弱な部分を見せている。
アルバムのハイライトはPortugal The Man、The Last Artful、Dodgrと共演したもう一つの曲 “Fuel” で、Black Thoughtはその中で懺悔を請うている。豪勢でゴスペル調のプロダクションが彼のケーデンスを高め、彼のパフォーマンスが変に小奇麗にまとまったり機械的になるのを防いでいる。彼はそれでも警戒したままであるが、彼の声からは不安が、彼の言葉選びからは躊躇が感じられる。言葉をテクスチャとして、そして道具として使いこなすことができる能力が彼の最大の特徴だった。その内部のバランス感覚失くしては、かのヒップホップ・バンドも成功しなかっただろう。最終的に、EminemやRoyceの作品のような単調さと過剰さに陥ってしまうことからこの『Vol. 3』を救い上げているのは彼のその長年培った本能だった。“75 Bars (Black’s Reconstruction)” はBlack Thoughtの極めて優れた能力が主役ではあるが、それでもThe Rootsの楽曲であるような動きをするのである。