<Bandcamp Album of the Day>Ziemba, “True Romantic”
潜在意識の商業化に関するエッセイ ”Dream Kitsch” のなかで、ヴァルター・ベンヤミンは「夢の中で青い花(=ひらめきの元)を目にすることはないのである」と書いている。ロマン主義が資本主義に降伏していく様を見た彼の嘆きは、ニューヨークとエル・パソを拠点とするアーティスト=Ziembaの、夢と現実のはざまに位置しているこの作品の美学の中にも大きく表れている。ロマン派とその崇高な美学のように、Ziembaの最新作『True Romantic』は、感傷、脆弱性、そして恋愛関係にあるということの恐ろしさの極限を巧みに表現している。
『True Romantic』にはZiembaがこれまでのリリースでやってきたような、余計な匂いやファッションショーはついてこない。しかし、『True Romantic』にはその代わりコンセプトがある:ポピュラー音楽の歴史全体にわたって、ラブ・ソングを多面的に探究することである。Roy Orbison風のロカビリー ”Bad Love” があって、”You Feel Like Paradise” ではソフト・ロック風のエレクトリック・ピアノが鳴り、”Brazil” は豊かなサックスに導かれている。
しかし、クラウトロック(”Harbor Me”)から涼やかなヨット・ロック(”Casket and Cradle”)に至るまでのスタイルの変化のなかで、Ziembaのなめらかな歌声は、帰るべき場所を知らせてくれるかのような安心感をもたらしている。彼女の声はミックスの中で重ねられていて、彼女の最も悲しい感情を告白する際、大胆な素直さをのぞかせる。”If I'm Being Honest” では「正直に言うと、あなたに失恋してしまった」と断固に言い放つ。彼女の歌い方はこのアルバムのロマン主義的な感情の価値観への献身と見事にマッチしている。作品と一緒に販売されているバンパー・ステッカーには「FEELINGS ARE REAL(=感情とは現実に存在するものである)」と書かれている。私たちはもう青い花(=ひらめきの元)を夢見ることはないかもしれないが、『True Romantic』の世界とタイトル曲のミュージックビデオでは、Ziembaのバラードの手の届くところに青い花が置かれ、前面に出ている、
By Arielle Gordon · October 05, 2020