海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

<Bandcamp Album of the Day>Jon McKiel, “Bobby Joe Hope”

 

2015年、カナダのカルト的なインディー・ロッカー、Jon McKielはネット上の見知らぬ人からオープンリール・レコーダーのTeac A-2340を購入した。機器をセットアップした後、彼は同梱されていた30本のテープのうちの1本に、以前の所有者による録音が含まれていることを発見した。その中には、単一の楽器の演奏やヴォーカルの断片、そしてほぼ完成した曲が1曲含まれていた。4年後、McKielはプロデューサーのJay Crocker(Constellation Recordsのエクスペリメンタル・エレクトロニック・アーティスト=JOYFULTALK)と協力し、リールから発掘したすべての素材をハード・ドライブに転送した。マッキエルはその音をチョップし10秒のループを作り、それらのサンプルを不気味でサイケデリックなポップ・ソングの基礎として使用した。このプロジェクトは、部分的にはマッキエル、部分的には彼にマシンを売った見知らぬ人物、Bobby Joe Hopeにクレジットされている。

『Bobby Joe Hope』に前身があるとすれば、2009年のアルバム『Broadcast and the Focus Group Investigate Witch Cults of the Radio Age』だ。この憑依論的プロジェクトでは、イギリスのアート・ロック・グループ=Broadcastが、ホラー映画やテレビ放送、童謡などのサンプルを使用している。McKielのアルバムはBroadcastの転がるようなドラム・フィルと埃っぽい雰囲気が似ているが、『Bobby Joe Hope』はより親密な感じがする。オープニングの "Mourning Dove” やゴージャスな "Deeper Shade" などの曲では、静かなループが柔らかいベッドとなりMcKielの優しい歌声を聴かせてくれる。 ”Management” はChris Cohenのファンにも訴えるものがあり、ビデオゲームのトリビュート曲である “Secet of Mana” は、2020年の最もオタク的な曲かもしれない。おそらくこのレコードの最も現代的な比較としては、Sub PopのChad VanGaalenによるガタガタのホーム・レコーディングや、彼がプロダクションを手がけたヒョロヒョロのポスト・パンク・グループ=Womenが挙げられるだろう。両者の影響は、『Bobby Joe Hope』の中でも際立つ "Object Permanence" で強く聴こえてくる。鳴り響くギターと重厚なベースラインの上に浮かんでくるマッキールの小康状態の歌声は、様々な意味で気分を高揚させてくれる。

By Jesse Locke · April 29, 2020

daily.bandcamp.com