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<Bandcamp Album Of The Day>KinKai, “A Pennies Worth”

イングランドマンチェスターで生まれ育ったラッパーのKinKaiの最新フル・アルバム『A Pennies Worth』は、涼し気なフックとゴージャスでジャズ風のプロダクションを持つチル・ヒップホップ・チューンを集めた印象的なコレクションである。

1曲めの“Better Today”はバウンシーでメリハリのあるリズム、ジャジーな鍵盤とコーラスでのドリーミーなシンセのラインが聴きどころである。KinKaiは中央に立ち、なめらかで内省的なライムとコーラスでの甘い歌声によってトラックに命を吹き込んでいる。Glue70(アルバムの大半を手掛けている)のプロデュースによる“Cherry B”はまるでシロップのような、エレクトリック・ピアノを中心とするアンセムであり、KinKaiは人生を生き、その方向を探すことについて語っている。彼が孤独に感じていようと、賃料のためのお金をかき集めていようと、「お店でCherry Bを買って友人と弾けている」事ができている限り希望の光はあるということをKinKaiは教えてくれる。Children of Zeusをフィーチャーした“Top Down”ではテンポアップ。濃密でソウルフルなヴォーカルのハーモニーに支えられながら、KinKaiはそのリラックスしたデリヴァリーでトラックの上を滑空し、ドライヴすること、金を稼ぐこと、そして良い人生を送ることのイメージを想起させる。

スタッカートの効いたシンセのライン、スウィングしたビート、そしてドリーミーなヴォーカルのハーモニーをフィーチャーした“Order”でアルバムは幕を閉じる。KinKaiの歌詞は味気なくなってしまった関係を鮮明に描き出す。後悔し癒やされようとした彼は以前のパートナーに直接宛てて歌う。『A Pennies Worth』の多くの曲がそうであるが、“Order”は個人的な歌詞と贅沢なプロダクションをつなぎ合わせていて、ソウルフルでありながら体裁よく作り上げられたアルバムを縫い合わせている。

By John Morrison · April 28, 2020

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