<Bandcamp Album of the Day>Kairon; IRSE!, “Polysomn”
Kairon; IRSE!ほどに五感を圧倒してくるようなバンドは少ない。フィンランドから現れたこのグループは自分たちの音楽を「サイケデリック・カオス」と称し、万華鏡のようなサイケ・ロックのマキシマリズムを実践している:クラウトロック、ストーナー・ロック、プログレと言った要素を広範に、そして複雑に配合しながら、宇宙的なジャズ風味のサックスと多次元間を行き来するようなシンセサイザーで飾り立ててる。彼らの3作目『Polysomn』は前2作(2014年の『Ujubasajuba』と2017年の『Ruination』)の過剰なまでの装飾を親しみやすいアート・ポップ的な奇抜さで抑え、性急で重厚な作品となっている。
『Polysomn』はそれでもKairon; IRSE!の、Pink Floyd風のうねるようなプログレとCanのモトリックなリズム感といった過去のリズム的特徴を引き継いでいる:しかし今回はその音響的付属品の迷宮の中にメロディーやフックが戦略的に配置されている。“Psionic Static” はスペースエイジ風のシンセとガタガタしたビートが奏でる毒気のあるイントロから徐々に激しさを増していき、堂々としたアンセムと言ってもいいような曲へと開かれていき、ローファイとSFが交差する照準にピタリと合わせられている。舞い上がるような “Retrograde” ではフックが全面に押し出されていて、幾重にも重ねられたギター・トラックよりも前に出ている。Kairon; IRSE!がその騒々しさを抑えたときでさえ、彼らは奇妙で超世俗的なままであり、“Mir Inoi” では一聴するとギターのサウンドが聞こえず奇妙なシンセのミニマルなループだけが聞こえて、UKのサイケ・ポップ集団=Broadcastの悲しい残響のように聞こえる。簡素ながらもいろんなサウンドが詰め込まれたアシッド風味のポップな楽曲 “White Flies” はアルバムの中で最も快楽中枢にドーパミンを送り込む楽曲であり、比較的ストレートなポップなこの楽曲はそれでも別次元への入口を通過したに過ぎないように感じられる。「サイケデリック・カオス」というのはKairon; IRSE!のメソッドをよく表しているが、その手法が結実した『Polysomn』は星と星の間に響くハーモニーのように聞こえるのだ。
By Jeff Terich · September 14, 2020