海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 17: 120位〜116位

Part 16: 125位〜121位

120. Justin Bieber: “Sorry” (2015)

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“Sorry”という曲は実に奇妙な怪物である。Shabba Ranks風のカリビアン・フュージョンのビートの上に、上品に切り取られたポップなメロディを移植することで、SkrillexとBloodPopはこのディケイドで最もトロピカルなハウス・ヒットの一つを生み出した。Justin Bieberの声を加工して作成されたエーテルのようなフックがシンセ・ホーンのメロディと押し寄せるドロップに対抗する。しかし“Sorry”を真の名曲たらしめているのはその機知に富んだ歌詞である:「僕が何回か、間違いを犯したことは君だって知ってると思う/何回か、というのは何百回かって意味なんだけど」とBieberは甘く囁く。申し訳なさそうに、しおらしく、所々セクシーにすら聞こえる。彼のような堕落したアイドル、このディケイドにおける白人男性の短気さとヤンチャな行いの象徴が、#BlackLivesMatterのプロテストの時代において(特に彼がアーバン・カルチャーを長きにわたって盗用してきたと言う文脈において)、贖罪と二度目のチャンスについて甘美な歌を歌うという点は、広く理解されるべきである。–Jason King

119. Fleet Foxes: “Helplessness Blues” (2011)

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これは、属する場所を見失ったり、見捨てられたり、世界に存在している目的がよくわからなくなってしまったと感じる人のためのアンセムである。Fleet Foxesの印象派的なセカンド・アルバムのタイトルトラックであるこの曲はフロントマンのRobin Pecknoldのより興味深い部分を明らかにしている; 初めからこのソングライターの舞い上がるようなハーモニーの下には何か暗くて複雑なものが光っていたが、この“Helplessness Blues” は彼のノイローゼをこれまでにない規模で象徴しているのだ。ヴァースの中で、彼は他者や聴き手の役に立つとはどういう意味かを熟考し、やがてこの曲の情熱的なギターがひび割れ、そこから広く開かれた何マイルものドラム・フィルと田舎での(他にどこがある?)簡素な生活の夢想が飛び出してくる。Pecknoldは曲の最後の最後で「いつの日か、映画に出てくるような男にるんだ」と宣言する。彼の世代がどれほど頻繁に今とは違う人生や、与えられた道具のかだについて考えてしまうのかということを思い知らされるほどに、この歌詞は曖昧である。–Larry Fitzmaurice

118. Travis Scott: “Sicko Mode” [ft. Drake] (2018)

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昔ながらの知恵で考えれば、3つのパートに分かれた5分の曲なんて、現象になるほどのヒットになるわけがなかった。どんどん短くなる注意持続時間がヒット曲をどんどん短くしている現状を鑑みれば、それは尚更である。しかし“Sicko Mode”にはTravis ScottとDrakeという、時代を代表する二人のラッパーが参加していて、とてつもないエネルギーを持ってこの曲を機能させている。この曲の最初のパートはDrakeの短いヴァースで、まるで聴き手を焦らすように突然切断される。ファンキーな2番目のビートが始まり、Travisがステージの中央に躍り出て彼のキャリア史上最高峰クラスのラップを始めるとリスナーはDrakeのことなど忘れてしまう。徐々に盛り上がってくるこの曲のフィナーレでは、Travisトロントの象徴が揃って、ディケイドを象徴する掛け合いの一つを披露する。–Alphonse Pierre

117. Usher: “Climax” (2012)

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UsherはかつてR&Bを決定的に支配していた。音楽業界がその後10年間彼のクローンを大量生産したほどに。しかし2010年にもなると、彼は変哲もないMax Martinやwill.i.amの曲にゲスト参加するような、どこにでもいるポップ・シンガーに成り下がった。しかしそこで“Climax”が発表された。これによって“Honey got some boobies like wow, oh wow”といった歌詞による彼への批判的な評判が一挙に救われることとなった。いつになく控えめなDiploによってコ・プロデュースされたこの2012年のヒット曲はすぐさまJames BlakeやThe WeekendのようなオルタナR&Bの新人たちと比較されることになった。しかし彼は強烈な感情を肩をすくめながら伝えるのではなく、終りを迎えつつある関係を孤独なファルセットで痛切に歌い上げるのであった。ヴァースは盛り上がりを作り、止め、またそれを試み、そこで終わる。ある時点で、Usherはその感情的な懇願の最後の叫びのように思えるものを発し、そこでクライマックスを迎えると思いきや、そこで終わらず、トラックは再び引っ込んでいく。曲とメッセージの符合の点において、それは素晴らしいことである。Usherのキャリアの小宇宙においては、このことは悲しくも予言的であった:彼はこのディケイドの残りを、この“Climax”の高みを再びつかもうともがき続けるのである。–Katherine St. Asaph

116. Burial: “Kindred” (2012)

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悲しいことに、Burialの2007年の大傑作『Untrue』の続編はこのディケイドの内に届けられることはなく、彼は断続的にシングルやEPを発表するにとどまった。しかしこの戦略によってこのミステリアスなプロデューサーの高尚なレガシーを生きながらえさせる曲が誕生した。それがこの“Kindred”である。かねてからの野生のジャングル・チューンへの執着はそのままに、この曲はこの近代世界の混乱に更に深く入り込み、まるでWilliam Basinskiの『The Disintegration Loops』が10年前にやっていたのと同じように、衰退と喪失を優しく包み込む。“Kindred”には幽霊が取り憑いているように感じられる。逸脱したノイズがフロウを乱すと同時に、なぜだかこれら全てを12分の、一貫した組曲にまとめ上げている。これは何個も開かれたYouTubeのタブによる交響曲であり、我々の周りで萌えている炎の音である。–Andy Beta

Part18: 115位〜111位