Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 11: 150位〜146位
150. Nicki Minaj: “Beez in the Trap” [ft. 2 Chainz] (2012)
2012年、Nicki Minajはラップ/ポップ/クレディビリティにまつわる論争の中心にあった。その年の6月に行われたニューヨークのラップ・ラジオ局Hot 97主催のSummer Jamコンサートのステージ上で、おしゃべりなDJ、Peter Rosenberg は彼女の浅はかなヒット・ソング“Starships”を「リアルなヒップホップ」のアンチテーゼとして痛烈に批判し、こういうのは「コギャル向けだ」とこき下ろした。それは心の狭い、偏見に満ちた主張であった。Nickiの強みというのは常にラップを前例のないところに連れて行く、狡猾ともいえる汎用性にあった。しかしこの“Beez in the Trap”が文句なしの成功を収めたことも完璧なアンサーとなった。「リアルなヒップホップ」が欲しいのか?ここでNickiはシンセがブンブン、バンバン、ブクブクとなる耳馴染みのないビートの上で、続々するようなパースをバッチリと決めているぞ。“Starships”と“Beez in the Trap”が同じアルバムに収録されていて、同時にヒットしていたことは、まさにNickiがどんなラッパーであるかを如実に物語っていた。彼女は奇妙で唯一無二の才能を持った女性であり、ティーンからゲイの青年、さらにはラップ中毒患者まで、ありとあらゆる人間を魅了するのだ。–Alex Frank
“twinks”を「ゲイの青年」と訳していいものか。ゲイ・スラングではあるけども指示対象がゲイに限るものなのか、どうなのか・・・
149. Björk: “Stonemilker” (2015)
Björkはこの10年間、VRやビットコインを用いた複雑な実験に身を投じ、新しいアルバムはそれぞれより開かれた技術的なナラティヴで提示された。そこで、彼女のこの時代におけるベスト・ソングが最古の感情、失恋についてであることは密かに皮肉である。Björkの8作目『Vulnicura』の1曲めであるこの“Stonemilker”は芸術家・Matthew Barneyとの別離にインスパイアされたものであり、歌詞の中には彼女の生々しい感情が撒き散らされている。「感情的な尊厳をちょうだい」と彼女はフックで要求する。活火山のようなビートがはずみ、ストリングスが彼女の周りに飛び込んでいく。未来において、このVRのヴィデオはサイレント映画のフィルムのように骨董品になってしまうだろうが、この悲嘆に暮れた顔の猛烈さが伝えるメッセージは最先端で有り続けるだろう。–Ben Cardew
148. GoldLink: “Crew” [ft. Brent Faiyaz and Shy Glizzy] (2017)
夏のそよ風が過ぎ去ってから長く経っても、そのアンセムは生き続ける。“Crew”のような曲を聞けば、2017年の夏のこと全て―人間関係、あの瞬間、早めに帰ったあの金曜日の天気―が鮮やかなディテールと共に蘇る。そもそもはこの曲はGoldlinkの地元、メリーランドのための曲であるが、それを遥かに超えた意味を持つようになった。Linkの素早いデリバリー、Shy Glizzyの語りかける口調のヴァース、そしてBrent Faiyazのすべすべした、懐かしいようなメロディーが互いにシームレスに注ぎ込まれていく。この3人はこの曲をチャーミングであると同時にキャッチーにしていて、この曲のバックヤードでのバーベキューのプレイリスト入りを確実にしている。–Alphonse Pierre
147. Ella Mai: “Boo’d Up” (2018)
Ella Maiの出世作“Boo'd Up”は、時間が経つことなど気にしない贅沢な曲で、DJ Mustardによるきらめくようなインストの上で、誰かの腕に落ちていくようなメロディの中をヴォーカルが動いている。これはまた、とても「らしくない」トップ10ヒットでも会った。多くの要素が“Boo'd Up”に不利に働いていた。Ella Maiがほとんど無名だったこと。かつてジャンルの中心だった女性によるR&Bが、2010年代を通じてアウトサイダーになっていたこと。この曲の物憂げなムード、出しゃばらないサウンド、そしてぼうっとした感情的輪郭が特に売れるものではなかったこと。そして人々がこの曲を聞くと、それらの要素は的はずれであり、消え失せてしまったのだ。–Katherine St. Asaph
146. Gunna: “Sold Out Dates” [ft. Lil Baby] (2018)
コラボレーションというのは多くの場合、二人のアーティストが共通の関心を持って壮大な機会を迎えるという、いたって「ありがち」な物語に頼っている。アトランタのラッパー、GunnaとLil Babyはただ単に信じられないほど楽しい曲をたくさん作り、お互いの相手をすることをしたいようにみえる。彼らの多くの共演の中でも、“Sold Out Dates”は最も伝染力が強い。ここで彼らの声はシームレスの極みに達しており、どこで二人が交代したのかわからなくなってしまうほどだ。ひっきりなしに翻されるコーラスはエレキギターのリフの上を飛び回り、次々と着陸できる柔らかい場所を探していく。スポーツで例えるなら、これはStocktonとMaloneではなくて、StocktonとStocktonなのである。GunnaとBabyはお互いが完璧なポジションにいることを見てパスを出し、更に完璧なポジションへと移動するのだ。このダイナミズムは『Watch the Throne』期のKanyeとJayを思わせる。相手を出し抜いて手柄を得ようとするよりも、無限に湧き出てくる快楽主義的なアイデアに思索を巡らせ、答えなんか出さないのだ。–Hanif Abdurraqib
John StocktonとKarl MaloneはともにNBAの選手で、ユタ・ジャズで「最強のふたり」と呼ばれていたタッグ(適当。いま名付けた)。Stocktonは通算19711得点・15806アシスト、Maloneは通算36928得点・5238アシスト。アシストに徹したStockton、かっこいい。
Part 12: 145位〜141位