海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 9: 160位〜156位

Part 8: 165位〜161位

160. Odd Future: “Oldie” (2012)

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“Oldie”はマトリョーシカで、一番内側のご褒美はあの伝説のサモアへの「亡命」以来初めてEarl Sweatshirtが姿を現したということだ。『The OF Tape』の最後を飾るこの曲にはクルー全員(Frankですら)が参加しラップしているが、Earlのこの1ヴァースが全てと言っていい。これは入り組んだ40小節のエクササイズであり、Tumblrを読み漁り彼の初期の作品に触れていたものなら知っていたことを改めて証明した。小節から小節へ、Earlはこの世代を代表する才能であり、ハイプにも影響されない。数年後、彼は自身のアルバム『I Don’t Like Shit, I Don’t Go Outside』で、この常に真で有り続けた命題を述べている。「もしその曲に俺が参加していれば、みんな俺のヴァースまでスキップするのさ」–Paul A. Thompson

159. Katy B: “Katy on a Mission” (2010)

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Katy on a Mission”は、プロデューサー・Bengaの楽曲“Man on a Misson”として始まった。しかしこのKaty Bのリメイクがイギリスでトップ5入りを果たしたことが決定打となり、タイトルにもある“Man”は追い出されてしまった。そしてこの若いロンドンのシンガーはアンダーグラウンドのダンス・ミュージックの顔となっただけではなく、ダンス・ポップ一般の鏡となった。Katyは特に優れた歌手でもなければおてんば娘でもない、そのへんにいる女の子であり、そのことが彼女のヴォーカルに親しみやすい率直さと思慕を吹き込んでいる。この“Katy on a Mission”で、彼女は落ち着いたシンガー(彼女はBengaのトラックに合わせてらくらくと緩急をつけている)であり、オーディエンスの代理人でもある。彼女はクールな自信と、ストロボライトの点滅の速さに対する完全なる降伏の間を行ったり来たりしながら、まるで手を差し伸べてダンスフロアに誘うようにリスナーを巻き込んでいく。–Katherine St. Asaph

158. Waka Flocka Flame: “Hard in da Paint” (2010)

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Waka Flocka Flameはその純然たる騒々しさのイメージを払拭するために賢明にトライしたが、彼のデビュー作『Flockaveli』(2010)には実は多彩な魅力が込められていた。悪意と陽気の両方ともに彼はすんなりと馴染む。彼は目の前にある物質をとことん楽しむし、その一方でより良くなり得た自分の人生について嘆いたりもする。彼の人気爆発に一役買った、Lex Lugerプロデュースによる威嚇射撃、“Hard in da Paint“にはこれら全てのよくあるモードが含まれているが、同時に全く唯一無二にも感じられる。最初に彼はメインの女だけではなくガールフレンドも愛人もいることを自慢するが、最後に彼は「弟が死んだ時、俺は『学校なんかくそくらえだ』って言ったんだ」と認める。これは互いに相反する衝動の間の緊張感が高まっていくような「人間の二分法」のようなものではない。大事なのは、これらの出来事がすべて一瞬のうちに起こっているということなのだ。–Paul A. Thompson

157. Beyoncé: “1+1” (2011)

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この“1+1”をライヴでパフォーマンスする時、彼女はよくひざまずく。神々しい愛の性質について歌ったバラードを歌うのにはうってつけの体勢である。録音ヴァージョンでは、彼女の声は控えめにも様々な要素に縁取られている—Prince風のギター・ライン、ゴスペル風のオルガン、そしてチャイムの揺らめく音—そのためBeyが優しいファルセットを放つ前に原始的な叫び声を上げる時、そこには彼女のヴォーカルの純粋な力から気をそらしてしまうものが多少存在している。

この曲の構造はシンプルである。Beyoncéは何事かについて—数学や銃、もしくは戦争について—あまりよく知らないことを認め、その後素早く彼女のパートナーへの深い忠誠心へと転回する。彼の強さと永続性に安心感を見出す。その結果生まれるメッセージは美しく、半ばスピリチュアルやものである: 愛を信じよ、さすれば人生のいかなる不安においてもそれはあなたを支え、導いてくれるだろう。–Michelle Kim

156. Girl Unit: “Wut” (2010)

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“Wut”をこれほどの推進力のあるエネルギーの突風たらしめているのは、緊張と緩和の巧みな操作と、その一見超次元的に見えるテクスチャーの利用である。808を使用したラップのインストゥルメンタルを下地とし、聴くものをニヤッとさせるヴォイス・サンプル、不安定なシンセ、そしていちいちいいタイミングで鳴らされるエアホーンを敷き詰めたこの“Wut”はイギリスのこの10年のクラブ・シーンから現れたもっとも威勢のいいピークタイム・トラックの一つである。これはいわゆる「踊らずにいるのが不可能な曲」の一つであり、クラブシーンとヒップホップの蜜月が実を結んだ一例である。–Ruth Saxelby

Part 10: 155位〜151位