海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 10: 155位〜151位

Part 9: 160位〜156位

155. Kanye West: “Blood on the Leaves” (2013)

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“Blood on the Leaves”はこの10年でKanyeを偉大に、そして同時に惨めにもしたものの縮図である。彼があまりにも何かを美しく成し遂げるものだから、我々は彼が下手にやらかしたもの全てを耐えてきたのだ。Nina Simoneの“Strange Fruit”とTNGHTの“R U Ready”を『ワイルド・スピードX2』スタイルで衝突させたこのビートは、10台の車が絡んだ多重衝突くらいの風流さである。父としての苦悩、浮気、そして養育費について、度重なる不貞とアパルトヘイトを比較しながら騒ぎ立てるこの切り刻まれたオートチューンのヴォーカル。この曲はこの10年の間に作られた音楽と同じくらいに醜いが、その醜さは魅惑的であり、意図的なものである。Kanyeが自身のオーバーヒートしそうな想像/妄想を養うために作る音楽はとても具体的で毒々しく、この曲やその他の曲でもそうだが、全てを一つにまとめてしまう力があるのだ。–Jayson Greene

 「『ワイルド・スピードX2』スタイル」(原文だと“2 Fast 2 Furious-style”)って何なんだろう・・・。「全く相性がよくなさそうな者同士をかけ合わせる」みたいなニュアンスなんだろうけど、あの映画にそんな要素あったっけ?

154. Japanese Breakfast: “Everybody Wants to Love You” (2016)

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“Everybody Wants to Love You”の中で、Japanese BreakfastのMichelle Zaunerは素晴らしいほどに抑制されていないロマンスのヴィジョンを見せてくれる。彼女は想像を突っ走らせながら架空のカップルの一連のあらましを描いていく。歯ブラシを共有するような物静かな親密さから、即席の結婚まで。“番号を教えてくれる?/一緒に寝てくれる?”神々しいシンセサイザーの上で、彼女は恥ずかしそうに尋ねる。“朝起きた時/またしようと言ってくれる?”

不協和音が響くギター・ソロやグイグイと引っ張っていくようなバッキング・ヴォーカルを擁したこの曲は無性にキャッチーである。しかし繰り返し聴いていると、アップビートなイメージにヒビが入っていく。Zaunerは今から始まっていく関係を歌っているのだろうか、それともとうに終わってしまった関係になんとかして息を吹き込もうとしているのだろうか?繰り返される曲のタイトルは魅力的であることの祝福なのか、それとも恋に心酔していることへの嘲りなのか?“Everybody Wants to Love You”は見かけよりもだいぶ複雑であり、それは愛そのものと同様である。–Quinn Moreland

153. Danny Brown: “30” (2011)

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30歳から始まるラップ・キャリアよりも、30歳で終わるキャリアのほうが圧倒的に多いだろう。2011年、Danny Brownは痛いほどその事実に気づいていた。その時彼は20代に別れを告げ、長い間業界の回転の周期に閉じ込められていたところからラップ・スターダムへ登る階段の最後の一段を登ろうとしていたところだった。彼が半狂乱でラップする“30”に吹き込まれているのは、砂時計の砂が残り僅かであること、最良の希望がこの手から滑り落ちていっていることに気がついている男の死にものぐるいのもがきである。不条理主義者によるパンチライン・ラップとして始まるこの曲はすぐさま、パーソナルなカオスの一覧表へと姿を変えていく。プロデューサーのPkywlkrのホーンはまるでアコーディオンのように戯画的で、息切れのようで沈痛である。Brownは彼の人生の目的が達成されなかったもう一つの未来に恐れおののいている。彼は娘のことも知らず、愛されず、満たされずにオーバードーズで死んでいくヴィジョンを見る。「この10年間俺はマジで気が狂いそうだった/目には涙、もうたくさんだ/成功を得られないという考え、俺は死にたいと思っていた」と彼は泣きながら叫ぶ。このデトロイトのMCの栄光から8年たった今聞いても、この曲には心を揺さぶられる。–Sheldon Pearce

152. Miley Cyrus: “Wrecking Ball” (2013)

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2013年、8月25日。Miley CyrusはVMAsでの自身のパフォーマンス中、他の女性の肛門をなめるような仕草をし、フォーム・フィンガーで自慰をし、Robin Thickeにトゥワークをした。彼女は一瞬にして、彼女の中に残っていた「ハンナ・モンタナ」的な純朴さを破壊し尽くし、ものの数分で「アメリカの恋人」から「アメリカの悪夢」へと変身したのだ。その日、彼女は“Wrecking Ball”をリリースし、このほとぼりが冷めたあとでも彼女のキャリアは続いていることを証明した。

Mileyの焼けたタバコのような声にピッタリのこの“Wrecking Ball”は、激しく惹かれたあとにその愛を失うことの苦しみを見事に描いている。この曲は21世紀で最良の失恋ソングの一つであり、この世の終わりまでカラオケ・バーでは傷心した酔っ払いがこの歌を歌い継いでいくだろう。涙ぐむMileyが大きなトンカチを舐め回したり、巨大な鉄球で裸になって回転するこのヴィデオは、来る時代において「2010年代」を想起させるハイライトとして使われるだろう。しかし残念ながら、この楽曲とヴィデオ両方のレガシーは#MeToo時代最大のヴィラン、プロデューサーのDr. Lukeと写真家/監督のTerry Richardsonによって汚されてしまった(言うまでもなくMiley自信の数々の疑惑も、だ)。しかしこの曲のコーラスが耳に入ると、肺を目一杯使って一緒に歌わないでいることは不可能なのだ。–Amy Phillips

151. Gang Gang Dance: “Glass Jar” (2011)

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Animal CollectiveYeah Yeah Yeahsを輩出したニューヨークのアート・ノイズの流れから出現したGang Gang Danceは境界線を曖昧にし、グローバルなステージに上がる段階でホイットニー・ビエンナーレにも参加した。2011年発表の『Eye Contact』の1曲目であり、11分半の長さを持つ“Glass Jar”は前奏曲であり、序曲であり、バンガーでもある。この他にもたくさんの曲がそうであるが、この曲も2002年にチャイナタウンの屋上で雷に打たれて亡くなった、バンドメイトのNathan Maddoxに捧げられていて、彼らのキャリアの次の段階へとつながるドアである。最初に漂うようなスポークンワードから完全体のグルーヴへのゆったりとしたシフトがあって、続いてドラマのクラシカルな感覚をもっと降り注ぐシンセが現れる。半分を少し超えたところにならないと、ドラムは決まったパターンに落ち着かない。サンプル、引用、そして芸術的なディテールがこの“Glass Jar”を覆っているが、その目的地はブルックリン式のドロップであり、世界中のダンスフロアでもそれだとわかるのだ。–Jesse Jarnow

Part 11: 150位〜146位