海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 8: 165位〜161位

Part 7: 170位〜166位

165. Jessica Pratt: “Back, Baby” (2014)

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Jessica Prattの2作目『On Your Own Love Again』には、まるで家の中で吹雪を待つような人を孤独にする力がある。その他の靄のかかったような収録曲の中で、この“Back, Baby”はまるでオールディーズのラジオ・スタンダードのような親しみやすいメロディーを持ち、最も明瞭にメッセージを伝達する。変わっていて、悲しく、少しだけ歪んだPrattの節回しは、世界を迎え入れるのではなく立ち退かせることの方に関心があることを感じさせる。ナイロン弦のギターが爪弾かれる中、彼女は上下に揺れるリフレインと言葉にならないコーラスを行ったり来たりする。彼女の声は、そこで控えめに述べられている提示を嘘であると証明する激しさによって縫い込まれている。「時々、雨よ降れと祈ったりする」と彼女が歌うのは太陽がブラインドから差し込んで来た時である。しかし彼女が最もアップビートな時でさえ、そこにはひとさじの悲しみがあり、やまない嵐はないということがわかっている。–Sam Sodomsky

164. Andrés: “New for U” (2012)

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「Andrésの“New for U”にはそれほどの価値がない」と言うことは間違いではないかも知れないが、それは的を得た意見であるわけでもない。シンプルなツールはいつだって最も効果的だということを、デトロイトのDJはこの曲で証明している。美しいストリングのメロディをメインの装飾として使いながら、“New for U”はシンフォニック・ディスコとハウス・ミュージックの境界線にまたがって立ってみせる。ときおり見せるそのくたびれた雰囲気も相まって、この曲はまるでもっと優れたDJが展開するようにプレイさせるようにあらかじめ書かれていたようであり、そのピークはわかりやすく提示されている。かつてSlum VillageのDJを努めていたAndrésはこの10年でかなりの量の音楽をリリースしてきたが、このトラックが持つ抑制された力に敵うものは一つもない。–Matthew Schnipper

163. Davido: “Fall” (2017)

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2017年以前から、ナイジェリアのアフロポップ・シンガーであるDavidoはアフリカを代表するアーティストとしての地位を確立していたが、この“Fall”は彼を世界的なスターへと押し上げた。この曲のソフトなメロディとDavidoのトリッキーなカリスマ性を好きになってしまうことを誰が責められるだろうか?歌詞の一語一句にはめまいがするような大胆さと脆弱さが込められている。「遊び人にはもうなりたくないんだ」と彼はピッチを上げて懇願する。2010年代の後半にはアフロポップは爆発的に人気になり、数え切れないほどのアーティストが流行に乗ろうと試みた。“Fall”はナイジェリアの音楽が西洋文化への影響を広げ続ける手段となり、その過程で世界的なアンセムとなったのだ。–Alphonse Pierre

162. Chance the Rapper: “No Problem” [ft. 2 Chainz and Lil Wayne] (2016)

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Chance the Rapper『Coloring Book』からの最もド派手なシングルである“No Problem”は、まるで誕生日パーティーで飾られるリボンのように、隅から隅までゴスペルのサンプルをまとっている。フックにおけるChanceの甲高い笑い声からスーパースターのゲストによる目がくらむほどの掛け合いまで、この曲は子供のような楽しさで溢れんばかりである。2 Chainzが素早く無遠慮なパンチをかますのに対し、Weezyはじっくりと、このトラックの中でベストのフレックスをデリバリーする、「時計なんてどうでもいい、俺は新しい腕を買う」。しかしこれらの鐘や笛の音はこれらのMCが背中に隠し持つ鋭いナイフを覆い隠すことはできない。「もし俺を止めようとするレーベルがまた出てきたら、ロビーにドレッドの黒人を送り込んでやる」。これは笑顔で放たれた脅迫であり、インディペンデントの誇りに捧げたこの喜びの歌に確固たる決意を込めている。–Madison Bloom

161. Vybz Kartel: “Clarks” [ft. Popcaan and Gaza Slim] (2010)

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目がくらくらするほどのシングル群、ピース・コンサート、そしてジャマイカの総理大臣・Bruce Goldingに導かれて開かれた会合を経て、ダンスホール・アイコンのMavadoとの苦々しいライバル関係を解消してから数カ月後、Vybz Kartelは昔ながらのやり方に戻り、ファッション・アンセムをリリースすることにした。そのトピックは最もクラシックなもので、ちゃんとしたものを着て、靴をきれいに保つことだ。Kartelは“Mad Collab”のリディム上で陽気で愉快である。自身のファッションの粋を小出しにしたり(「俺は昔から父親のマネをしてきた」)、ワラビーの衛生学について説明したり(「歯ブラシは早くホコリを落とせ」)、全体のルックをスタイリングしたり(「本当のバッドマンは短パンなんか履かない」)。彼はまた自分の弟子の新人、Popcanをトラックに招き入れ、彼は「イギリスの女王はYardieが好きに決まってる」というラインでジャマイカ人がイギリスの靴メーカーUptown Yardieを愛していること、そしてそれはイギリスへのジャマイカ移民を反映していることを称えている。そして何より、“Clarks”はKartelが自分の靴箱をレップするチャンスを与えた。彼が2010年にThe Guardian誌に語ったところによると、「俺はClarkを50足以上持っている。アメリカにある週の数より多いんだ」そうだ。–Julianne Escobedo Shepherd

Part 9: 160位〜156位