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<Bandcamp Album of the Day>DEHD, “Flower of Devotion”

意図せずともロックダウン生活の機微を描いた作品が今年これまでいくつも発表されている。Owen Pallett『Island』、Tenci『My Heart Is an Open Field』、Midwife『Forever』など。しかし、この生活が終わった後の感覚を描いた作品は少ない。シカゴの3人組Dehdはニュー・アルバム『Flower of Devotion』で、孤独といううす暗い呪いが解けたあとにもう一度世界と接続する、その儚い一瞬についての作品を作り上げた。もちろんタイミングは偶然であるが、一聴するとまるで運命であるように感じられるのだ。

今まで、Dehdは不安になるような、歪んだポスト・パンクによってその名を成してきた。初期2作『Dehd』(2016年)と『Water』(2019年)は神経過敏のギターと不協和音の叫び声で満ち溢れていた。しかし今回は、そのような全体に覆いかぶさる恐怖は消え去っている。シンガーでベーシストのEmily Kempf、シンガーでギタリストのJason Balla、そしてドラマーのEric McGradyは自信たっぷり、そして興味津々なサウンドを聞かせ、安心という新しいレンズを通してこの作品にアプローチしているようだ。“Desire” でKempfとBallaが “Let me out” と繰り返し、開放的で徐々に盛り上がる雰囲気をセットすると、二人はまるでジェンガを遊ぶようにフレーズを交互に歌い出す。Dehdは窓を開け、外に這い上がっていく。“Loner” の楽天的なメロディーから “Flood” のスロウな節回しに至るまで、Ballaによる柔和なプロダクションも相まって、これらの楽曲は強力なヴォーカル・パフォーマンスと、SALESLower Densといったインディー・ポップの輝きの残響のバランスを保っている。ヒビが入った人間関係に焦点を当てた歌詞や予想外の結末にもかかわらず、『Flower of Devotion』は新鮮な空気を吸い込む時の生き返るような感覚を思い出させるようなアルバムであり、微かな希望の光のような聴取体験である。

By Nina Corcoran · July 20, 2020

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