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<Bandcamp Album of the Day>Aaron Lee Tasjan, “Tasjan! Tasjan! Tasjan!”

セルフタイトルのアルバムには二種類ある。第一に、デビュー作というのがよくある(「自己紹介させてください」というようなもの)。第二にそれとはまったく異なり、もう一度自己紹介をするための手動リセット(「あなたは私を知っていると思っているだけ」というようなもの)。4作目となる『Tasjan! Tasjan! Tasjan!』において、イースト・ナッシュヴィルのカントリーから非カントリーシンガーへと変身を遂げたAaron Lee Tasjanは後者を試みている。その感嘆符が示すように、彼は自分の物語の輪郭を明確にしようとしているのだ。

 このアルバムは自伝的要素を多分に含んでいるが(それは自身がバイセクシャルであるという言及という形となって現れている)、Tasjanの目的の探求が満たされているのは、彼が(それが良い動機に基づくものではあるが)享楽的な冷笑主義に適合するときである。テンポが早まるほど、シンセがギラつくほど、鍵盤が明るいほど、虚栄や堂々とした態度を見せる余裕があればあるほど、Tasjanのサウンドはくつろいでい聞こえる。それは2016年の『Silver Tears』のラインストーン・カウボーイのようなギャロップや2018年の『Karma For Cheap』での巨大なフックの連発のことを考えると必ずしも驚きではないーー後者の “If Not Now When” や “The Truth Is So Hard To Believe” は様々な方法でOasisを踏襲している。

Tasjanはそれを “Don't Overthink It” で、肉付きの良いベース、蜘蛛の糸のようなギター・ライン、そして明白な「悪いことはどんどん悪化していく/でもそんなの関係ない」というメッセージとともに、見事に決めている。彼はリード・シングル “Up All Night” でも同じようなアプローチを用いていて、80年代のSpringsteen風の楽観主義と向こう見ずなきらめきに貫かれている:「彼氏と別れて/女の子と付き合うんだ/だって愛って、愛って、愛ってそういうものだから」。じゃあ、そういうことなのだろう。

彼が “Computer of Love” のビデオで運転しているネオンカラーの車がなにかを指し示しているのだとしたら、Tasjanは別にそこまで考えすぎているわけでもないようだ。しかし彼は自分で仕掛けた、何かを言わなければいけないという罠に対して多感である。アルバムは3曲の曲がりくねったバラードで幕を閉じるが、それはまるでなにかポジティヴな個人的帰結を提示したいという思いからであるように感じられる。古き良き電子オルガンのトレロモでの巧みなマイナー・コードの進行が聞ける “Now You Know” はその3曲の中でも秀逸である。しかしTasjanが嬉しそうに、そして雑然に諦念を示すときこそが、この感嘆符がたくさん用いられたあるバウムにふさわしいメンタリティであるように感じられる。言い換えるならばこうだ:Nice to re-meet you.

By Elle Carroll · February 11, 2021

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