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<Bandcamp Album of the Day>Nervosa, “Perpetual Chaos”

ブラジルのスラッシュ・メタル・バンド=Nervosaの4作目『Perpetual Chaos』は昨年はじめのメンバー編成の変更によってギタリストのPrika Amaralが唯一の創設メンバーとなってから初となる作品である。しかしそれは不幸中の幸いとでもいうべきか、この変動によってAmaralは世界中から3人の手練の支援を受け、今日の社会情勢と妙にマッチした、このジャンルの最盛期を思い起こさせるような凶悪でキャッチーなNervosa史上最も強力な作品を制作することに成功した。

このラインナップはすべて女性で構成されているーーNervosaは長年の間自分たちを「全員女性のスラッシュ・メタル・バンド」と呼称してきたが、それにはいつも物議がつきものだった。メタル・バンドたるもの、ジェンダーを全面に押し出すべきではないという根強い意見がある:「女性がフロントに立っている」というのはセクシスト的なセールスポイントであり、ジェンターを新奇性に作り変えてしまっている、というものだ。しかしブラジルの文化には未だに強力な盲目的愛国心が根付いていて、この国はSepultura、そしてVulcanoSarcófagoといったオブスキュアなバンドを始めとして多くの影響力のあるメタル・バンドを送り出してきたにもかかわらず、そのいずれのバンドにも女性メンバーは在籍していなかった。そういう文脈で見てみると、Nervosaは自分たちが属している音楽の伝統を転覆させようとしているのである。

AmaralはインタビューでもNervosaが直面してきたセクシストによる偏見による苦しみを包み隠さず語ってきたが、その闘争は彼女の作曲をより研ぎ澄ます一方であった:『Perpetual Chaos』にはパーム・ミュートのリフ、卓越したフレットワーク、そして怒りに満ちていながらも明瞭なボーカルがすべての楽曲に詰まっている。”Pursued by Judgment” では「偏見の持ち主と偽善者たち」を非難し、他の楽曲では政治的腐敗と格差の広がりを訴えている。これらは昔からスラッシュ・メタルで取り上げられてきた題材であり、『Perpetual Chaos』はこのジャンルのエリート・サークルへの仲間入りを果たしているように感じられる。大御所バンド=Destruction、Flotsam and JetsamのヴォーカルであるMarcel SchirmerとEric Knudsenが ”Rebel Soul” にゲスト参加していることからもそれは伺える。これは激しい戦いの末にもたらされた勝利であり、Nervosaが直面し乗り越えてきた戦いは無駄ではなかったのである。

By Joseph Schafer · January 21, 2021

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