海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Various Artists, “No Cover: A Carpark Covers Comp”

1999年に設立されたニューヨークのレーベル=Carparkはエクスペリメンタル/インテリジェント・エレクトロニック・ミュージックのシーンの前線となり、Kid606やCasino Versus Japanといったアーティストのリリースを手掛けてきた。レーベルは2005年にD.C.の都市部へ移転し、それに伴ってドリーム・ポップ、メロディック・パンク、ディスコ、シンセの効いたダンス・ミュージックなどへと軸足を移し、Beach HouseやDan Deaconといったアーティストのリリースの場となった。彼らはさらに、ポスト・パンクのリイシューを専門とするAcute Records、Animal CollectiveのPaw Tracks、Toro y MoiのCompany Recordsなど傘下のレーベルも立ち上げていった。

だからこそ、Carparkのアーティストたちがレーベル・メイトたちの楽曲をカバーするこの『No Cover』がその関心と感性において幅広い作品となっていることは理にかなっている。IDMからノー・ウェイヴ、インディー・ポップ、ポップ・パンクに至るまでありとあらゆるジャンルを横断する1枚だ。Cloud NothingsはSpeedy Ortizの ”Villains” にろーふぁいなパワー・パンクの大槌を振り下ろす一方、MontagによるAdventureの2009年発表のシングル ”Rio” のカバー、MelkbellyによるDeaconの錯乱させるようでいてキャッチーな ”Crystal Cat” はそれぞれ比較的オリジナルに忠実である。Erin AnneはEmily Reoのエレクトロ・ポップ ”Strawberry” をロック・バラードへ作り替え、Dent MayはBeach Houseの ”Saltwater” のもつ空気のような軽やかさを優しくしたかのようなヴァージョンを披露している。Rituals of MineはToro y Moiの ”Girl Like You” をトランス風にアレンジし、アルバムのハイライトを飾っている。全体的にみると、この21曲入りのアルバムはCarparkの巨大なファミリーに光を当て、その長年培われてきた多様性と円熟を高らかに祝福している。

By Jessica Lipsky · January 04, 2021

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