<Bandcamp Album of the Day>Erang, “Imagination Never Fails”
この『Imagination Never Fails』のジャケットを見れば、これは『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のPanos Cosmatos監督によるB級映画のサントラであるように見えるかも知れない。この真紅でサイケデリックな過剰感のあるヴィジュアルは、言葉通りノスタルジアの旅のようなものである。
しかし、Erangはそのような借り物の世界の中を生きているのではない。この10年近く、このフランスの作曲家は彼自身のファンタジーを追求してきた。何ならそれには名前もついている。「The Land of the Five Seasons」というタイトルのそれは、繰り返し登場するキャラクターと万華鏡のような風景をもつ、自己完結型の宇宙である。Erangはその土地の地図も作り上げ、その中には「暗闇のダンジョン」「眉の魅惑の森」「アラカノ城」など、RPG風の名称もつけられている。
Erangのこの新作と悪夢のようなウェスタン風の『Endless Realms and Nostalgic Gods』の間には2年以上の間隔があった。それはさほど長い時間には感じられないかも知れないが、その間に発表された17枚のアルバムがその重要さを物語る。
『Imagination Never Fails』を彼のこれまでのワイドスクリーンなプロダクションから離れさせるために、Erangはこの6つ目(6つ目!)となる楽曲のサイクルの冒頭に、短いながらも広がりのある作品を書き上げた。「The New Age」として知られるそれは、Ralph Bakshi(『ウィザーズ』、『フリッツ・ザ・キャット』、ニューヨーク・タイムズ紙が「退屈ながらも印象的」だと評した『指輪物語』の翻案など)によるブラシ・アニメ映画にゆるやかにインスパイアされている「The Land of the Five Sasons」から脱却の始まりを楽譜に起こしたものである。
「70年代という時代には特有の『木目』のようなものが視覚的にも音楽的にもあった」とErangはメールで解説してくれた。「このアルバムは映画的な味方で考えられているんだ」
幽霊のような声と壮大なメロディに導かれるような、ヴィデオ・テープ風の挿話がパッチワークのように繋げられたこの作品はアンソロジーのようでもある。単なるダンジョン・シンセのミュージカルではなく、これはブロッター紙に書かれたバラッド(”Long Ago in the Hidden Kingdom”)からマジシャンのクロークの中のテクノ(”Shipbuilding Music”)に至るまでありとあらゆるものを示唆している。”I Am Still Right Here” で聞けるかき鳴らされるストリングスとベルタワーは、Aphex Twinのシングル ”Girl/Boy Song” へのかすかな目配せとして捉えることすらできる。もちろん、よりゆっくりで中世風ではあるが。
それにしても、「想像力に失敗はない」とはよく言ったものだ。
By Andrew Parks · January 11, 2021