海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Kingdom, “Neurofire”

電子音楽のプロデューサーEzra RubinはKingdomという変名とともに、単に大げさなビートに頼るだけではなく、ダンスフロアにエロティシズム、メランコリー、そしてエクスタシーをもたらすことを念頭に置いた新しいアンダーグラウンドR&B~ポスト・クラブ・サウンドの構築者としてあがめられている。Rubinは四つ打ちのリズムをUKガラージドラムンベース、ジャングル、ハウスなどとブレンドし、SZAKelelaといったコラボレーターを魅了し、有色人種の女性を前面に押し出すプラットフォームを形成するようなユニークなサウンドを作り上げている。

彼の1作目『Tears in the Club』において、Rubinは失恋と新たな恋、喜びと暗闇がアトモスフェリックなビートと浮足立ったシンセ、そしてミニマルなベースのブレイクで彩った彼の世界への入り口を世に問うた。それに続く作品となるこの『Nuerofire』では、Rubinは自身のデビュー作を特徴づけていた魅惑的で水晶のようなポップを離れ、首の骨を折ってしまうようなフットワークのパーカッシブなパターンへと移行している。歪められ、ピッチを高められたヴォーカルのループ、ミニマルなダンスホール風のシンセ、そして夜のダンスフロアの恍惚から、失望の暗闇までにいたる運動のために設計されたハウスのリズム。

アルバムの1曲目 ”No More Same” はR&Bシンガー・ソングライターのLUVKをフィーチャーし、アルバム全体の雰囲気を定めている。ダンスホール風のシンセと深く、起伏のあるベースライン、そしてLUVKの官能的なリフレイン「行かなきゃ/飛び出して/このサイクルから飛び出して」がこの『Neurofire』全編に漂う緊張感、様々な競合する欲望たちをまたがってひろがるそれ、未知の領域に自由奔放に進むこと、内省の暖かな温度感を提示する。遊び心溢れる歌詞や半狂乱のビート、そして恐れを知らぬほどに性的なエネルギーを携えた、Kayla Blackmonをフィーチャーした ”Lightning” やUNiiQU3をフィーチャーした "Arch Side” のような楽曲が前者へと接近している。"Maze” や ”Vox Convex”、”Cell Splitter” のような瞑想的なインストゥルメンタルが心の状態を整える機会を提供することで激烈な雰囲気を断絶したかと思うと、すぐにとち狂ったダンス・トラックがまたやってくる。このように、『Neurofire』は『Tears in the Club』のムーディなポップ・ビートからよりエネルギッシュな領域への変化が特徴でありながらも、それでも瞑想や繋がりのためのスペースを残しているのである。

By Amaya Garcia · September 17, 2020

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