海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Black Wing, “No Moon”

Dan Barrettが作るものにはすべて暗闇が付きまとう。コネチカット出身のこのミュージシャン/ソングライターはこれまで、デュオ=Have A Nice Lifeの片割れとしてシューゲイズとポスト・パンクの陰鬱な深淵を掘り進め、ソロ・プロジェクトであるGiles Coreyでは荒涼としたゴシック・フォークの領域を切り開いてきた。しかし、彼の作品の中でも最も不吉で恐ろしいものの中にさえ、彼が抱えている暗闇は永遠に続くものではないと示唆するように、そこには開かれた感覚とほかのだれかとのつながりを切望する気持ちが見え隠れしていた。その二重性が極めて前面に押し出されているのが、2015年の『...Is Doomed』からスタートした、Barrettがゴシック・シンセポップを追求するプロジェクト=Black Wingである――ここでの彼の音楽は、彼の書く詞が見せるか弱さによってより親密なものとなっている。

それに続く作品となった『No Moon』の中でも、彼は陰気な雰囲気や激しく、歪められたビートというスタイルを手放してはいない。しかしそこには思っている以上に暖かみがあり、彼が自身の哀歌の中にこれまで以上に光を取り込んでいることがわかる。半分は自主隔離期間の中、孤独の中から何かポジティヴなものを作ろうという試みとして作られたこの『No Moon』では、たとえば “Vulnerable” のような聴く者を圧倒するほどのインダストリアル・ノイズと、“Always a Last Time” での明るくガーゼのようなシンセが同居している。“Is This Real Life, Jesus Christ” はそれと全く異なる種類のサプライズで、バブリーなキーボードの音色はまるでThe Postal Service。そして最後を飾る13分の “Twinkling” はまばゆいシンセが力強く勝ち誇るようである。最も赤裸々な瞬間は “Choir of Assholes” の途中で訪れる。Barrettは「これほどまでに苦しむのをやめたい…今・現在に集中したい…他人に対する共感を持ちたい」と自己承認のフレーズを吐露する。このような瞬間にあって、Barrettは暗い心を持つことと大きな心を持つことは決して相互排他的ではないということを証明している。

By Jeff Terich · January 07, 2021

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