海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Mary Lattimore, “Silver Ladders”

ロサンゼルスを拠点とするハープ奏者=Mary Lattimoreは場所と強固に結びついた音楽を作っている。彼女のデビュー作『At the Dam』はジョシュア・ツリー国立公園(カリフォルニア)とマーファ(テキサス)の超自然的な砂漠の風景二院パイアされて作られたものであった。彼女は前作『Hundreds of Days』を制作する際、北太平洋沿岸に位置するHeadlands Center for the Artsに滞在し、それが都市での生活とフィラデルフィアで過ごした過去との対比に新たな光を灯していた。この2作は共に喜び溢れていて、繊細だったが、最新作『Silver Ladders』ではその手触りがダークなものとなっている。これは水の体験を想起させる。クロアチアフヴァル島のビーチでの遊泳、レコーディング・スタジオに飾られているサーフィンの晴れやかな写真、そして危険な引き波で誰かを亡くしてしまったという暗闇。

このアルバムの録音とプロデュースは、シューゲイズ界の大御所=SlowdiveのNeil Halsteadによって行われた。二人は出演したフェスが一緒だったことで出会ったという。彼女はJeff Zeigner(またの名をValley Exit)、Meg Baird、そしてMac McCaughanといったアーティストと作品を発表するなど共作作業と無縁ではないが、彼女のソロ作は通常自分ひとりで作曲・録音をするのが常だった。Lattimoreの音楽をこれほどまでに魅力的にしているのは彼女のクラフトマンシップによるところが大きい。彼女のハープの作曲、シンセやピアノ、テルミンによる伴奏、そしてギターによる装飾は彼女の発明による唯一無二の訛りを持つ。

Halsteadのバンドは極めて特異な言語でコミュニケーションを取っているが、彼女のサウンドはそれに押しつぶされてはいない。“’Til A Mermaid Drags You Under” では、HalsteadのギターがLattimoreの特徴的な押し流す奔流のような美学にきっちりペースを合わせている。“Chop on the Climbout” では彼女のハープの輝きがシンセの分厚い雲でによって陰っているーーこの曲はLattimoreの作品が回顧録のように彼女の旅と深く結びついていることの証左でもある。このタイトルは、飛行機に乗っているときの乱気流の警告のフレーズが彼女の心のなかに残っていたことから取られたものであり、その楽曲にはタイトで緊張感がありながら、そこには希望という停留が存在するーーこれは旅の日記であり、そのために作られたサウンドトラックである。

By Claire Lobenfeld · October 16, 2020

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