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<Bandcamp Album of the Day>Loma, “Don’t Shy Away”

Lomaセルフ・タイトルのデビュー作をリリースしたあと少しドタバタが続いた。この靄がかったようなドリーム・ポップを奏でる三人組は2016年、シンガーのEmily Crossとマルチ奏者のDan Duszynski(当時はCross Recordという名前で活動していた)がShearwaterのフロントマン=Jonathan Meiburgと組み結成された。ファースト・アルバムのツアーを終えたあと、メンバーたちは各々の創作を追求するために袂を分かつことにした。そこで思いがけないBrian Enoからの祝福があり、彼はLomaの楽曲 “Black Willow” を気に入りBBCラジオに出演した際にそのことに触れてくれたのだ。そんな勝利を確証する出来事があった後、彼らはテキサスのドリッピング・スプリングスにあるDuszunskiの自宅で再結成することを決めたのだった。彼らがそう決めたのは我々からすると幸運である。

『Don't Shy Away』はLomaのデビュー作の核にあったサウンドを保っている。Crossのとりつかれたようなボーカルが控えめな楽器のサウンドスケープの上を漂っていく。Portisheadの帰還を待ち望むファンたちは “Thorn” や “Half Silences” といった曲の灰色の空のような憂鬱さや “Given A Sign” の脈打つようなサウンドに慰めを見出すかもしれない。これは “Elliptical Days” の荘厳なインストゥルメンテーションから放たれる明るさや、祝祭的な終わりに向けてサイズを膨らませていく “Breaking Waves Like A Stone” の円環するシンセと対照的に配置されている。アルバムを通じて聴くことができるのはCrossのクラリネットであり、それは彼女のボーカルのメロディを撹拌しながらそれに影を落とし、やがて金管楽器の突風に溺れていく。最後の “Homing” ではLomaがEno本人と共演し、Enoは楽曲のステム・ファイルを彼の思うままにミックスする機会を与えられた。その結果誕生したのは物憂げなララバイであり、居心地のいい場所に落ち着きながら、慣れ親しんだ手がそれらを眠りに誘ってくれる。

By Jesse Locke · October 27, 2020

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