海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Bing & Ruth, “Species”

10年以上に渡り、Bing & Ruthは滝のようになだれ落ちるピアノやオーケストラルな装飾、快活な電子音やミニマリスト風のドローンで飾り立てられた、感情に訴えかけるようなアンビエントを作曲してきた。しばしば、その作品は広大な感覚を呼び起こす。このDavid Moore率いるニューヨークのアンサンブル・プロジェクト(ゼロ年代中盤に始まった時には11人だった編成は3人まで削ぎ落とされた)の最新作『Species』では、過去のBing & Ruth作品のロマンティックなピアノの造形を、Steve Reichにも認められたファルフィッサ・オルガンに置き換えている。ダブル・ベース奏者のJeff Ratnerとクラリネット奏者Jeremy Vinerと共に、Mooreは最近ハマった長距離走に刺激を受けてこの作品の見取り図を書いた――「一つの足をもう一つの足の前に出すというトランス状態は際限のない、不毛な砂漠の風景を映し出している」と、彼はリリース・ノートに付している。彼が特定の環境について言及しているのは意図的なものである:このアルバムは西テキサスの砂漠砂漠でレコーディングされたもので、編集やオーバーダブはなされていない。

この作品を駆動しているのは運動であり、自分の周りをとてつもない広がりが取り囲んでいるときに感じる、自分が小さくなったかのような感覚を味わうための方法としてのランニング、という概念に根ざしている。ここに収録された楽曲たちはそのような広大さの感覚を呼び起こす。ドローン風の1曲目 “Body in a Room” では霧のようなオルガンが荒涼とした海岸に広がる蜘蛛の巣のように物語り、どこか見たことのない土地へと流れていくような感覚である。“Badwater Psalm” は、豊かなファルフィッサの持続音と残響するベースの音色の超越性に向けて高い弧を描き、“The Pressure of this Water” では波のようにうねるオルガンとアーシーで楽しげなクラリネットを混ぜ合わせている。すべてがシームレスでオーガニックに聞こえるこの作品は、3人が終わりの見えない通路に向かって奏でているサウンドである。

By April Clare Welsh · July 17, 2020

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