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Weekly Music Review #13: Nothing『The Great Dismal』

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Nothingの「The Great Dismal」をApple Musicで

The Great Dismal - Album by Nothing | Spotify

Nothingはフィラデルフィアで結成されたシューゲイズ〜ポスト・ハードコア・バンド。しかし中心人物のDominic "Nicky" Palermoが以前にやっていたバンド=Horror ShowはConvergeのJacob Bannonが主宰するDeathwish Inc.からEPををリリースしていたり、このNothingもエクストリーム・メタル〜デス・メタルを本領とするレーベル=Relapseと契約していたり、メンバーには元・Deafheavenのメンバーがいたりと、かなりハードコア〜メタルと距離が近いところにいるバンドである。

もちろんDeafheavenを始めとして現代(特にブラック・)メタルはシューゲイズ的な「ギターの滝」とでも形容できるような、轟音の中になにか静謐でアンビエンスを感じさせるような音像に接近していったという側面もあり、別に驚くようなことではない。

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1曲目の “A Fabricated Life” はまさにそういった雰囲気の曲で、ギターとヴォーカルだけの弾き語りスタイルで始まるこの曲が終わる頃には、気がつくとあたり一面に音の霧が立ち込めている。アルバム中唯一のドラムレスの楽曲を冒頭に持ってくるあたり、完全に「やり」にいってる感があってゾクゾクする。ちなみにこの曲でハープを弾いているMary Lattimoreはつい先日SlowdiveのNeil Halsteadのプロデュースでアルバム『Silver Ladders』を発表したばかりだ。

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続く2曲目は先行シングルとして公開されていた “Say Less”。ダンサブルですらあるシンプルなビートのループの上でギターとヴォーカルがゆらゆらと、そしてぐらぐらとたなびいているようだ。ラウドな瞬間とメロディが美しい瞬間の押し引きもあって、非常にキャッチーでポップな1曲だ。

この曲が本作のサウンドを象徴している。過去作も一通り聴いてみたけれど、今回のアルバムが最も硬質な感じがあって、それはポスト・パンクっぽくもあるしメタルっぽくもあるし、ハードコアっぽくもある。初期作のようなインディー・ロック〜ドリーム・ポップ的側面は一気に減退し(4曲目の “Catch a Fade” にその面影を見ることはできるが)、徹底してガツンと言わせたろ的なムードが感じられる。とはいいつつもサウンドは超ド直球のシューゲイズで、ジャンル作品としては文句なしの完成度を誇っていると言っていいだろう。そして(ちらっとさらった程度だが)このバンドのキャリア史上最高傑作といっていいだろう。ライヴ見たい。