海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Loraine James, “Nothing”

ロンドン生まれのプロデューサー=Loraine Jamesプログレッシヴな電子音楽の世界において強力な新生である。彼女の最新EP『Nothing』は2019年のHyperdubからのデビュー作にして、想像力豊かなスタイルの融合を通じてクィアなロマンスを物語った『For You And I』に続く作品である。『Nothing』でもそのスタイルの融合という作風は保たれているが、大胆に新しい形式に舵を切っている。

このEPはウルグアイのプロデューサー=Lila Tirando a Violetaとのコラボレーションであるタイトル曲で幕を開ける。聖歌のようなシンセとディープなヴォーカル、そして予測できないドラム・パターンを持つこの曲はJamesの音的世界への招待であり、我々の想像を誘発する。“Marg” ではヘヴィに歪められたキック・ドラムとドラマティックなストリングスの主題を組み合わせ、イランのラッパーTardastがその声を多層的に重ねたり、囁いたり、ねじったりする余白を与えながら、ヒップホップとダークなエレクトロニカを混ぜ合わせている。“Don't You See It” は高揚感のあるポップ・チューンであり、Jamesは豊かなピアノのコードとシンセパッドを弾むようなビートに重ねていく。Jonnie Standish(HTRK)のヴォーカルに確固たる中心地を生み出し、Jamesのゴージャスなプロダクションがさらにレイヤーを加えていき、感情的な激しさを徐々に盛り上げていく。数多くの音的領域を比較的短いランタイムに詰め込んだ『Nothing』は、Jamesが多様なスキルと特異な声を持っているプロデューサーであることを印象づける、タイトで印象的な作品である。

By John Morrison · October 07, 2020

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