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<Bandcamp Album of the Day>Deradoorian, “Find the Sun”

Dirty Projectorsのベーシスト兼ボーカリストだったAngel Deradoorianは、過去5年のあいださまざまな度合いの孤独を探究する中で充実した日々を送っている。2015年に発表した、催眠効果のあるようなソロ・デビュー作『The Expanding Flower Planet』は自立することを通じて自分を愛することを探し求めた作品であり、周りの人間にそう言ってもらうのを待たずに自分から「美しい女性」であることを宣言するものであった。彼女はその後もブルックリンとニューヨーク北部の森の中を行き来しながら、内なる幸福を求めて文字通り一人きりで過ごしていた。彼女が次のアルバムに向けたインスピレーションを得たのは似たように孤独な旅路であるヴィパッサナー瞑想(とにかく静かに過ごすことを目的とした黙想会)においてであった。そうして作られためまいがするようで、聴くものを釘付けにしてしまうような『Find The Sun』は、彼女の自己発見の過程を不気味なジャズと魅力的で推進力のあるクラウトロックーーOzzy Osbourneを経由したCanのようなーーへ変形させたものになっている。 

“Red Den” のブルージーなリフや “Monk's Robe” のバロック風のアコースティック・ギターは彼女のデビュー作のファンキーでサイケデリックな作風からゴシック的なスタイルへ移行したことを示しているが、それらはDeradoorianがThe Yeah Yeah YeahsKralliceLiturgyInterpolといったバンドのメンバーたちと組んでいるBlack Sabbathのカヴァー・バンドでありインディー・ロック・スーパーグループであるBlack Sabbath Cover Band Rehearsalsで演奏していることを考えれば当然のことである。“The Illuminator” のフリー・ジャズや “Devli's Market” のヒプノティックなリズムは、ヴィパッサナー瞑想で得た悟りによってゴングと打楽器の達人であるSamer Ghadryをレコーディングに招こうと思った結果である。深くて甘い彼女のボーカルは瞑想に導いてくれるガイドのような役割を担っている: “It Was Me” で彼女は自身の自己受容への道のりをトランス状態のようなモノトーンで淡々と説明する。「瞑想について知りたいことはなんですか?」と彼女は不吉に繰り返す。 長年の自己実現が結実した作品である『Find The Sun』は平穏へと続く魅惑的な道筋を描いている。それは決して安易な解決策を約束するものではないが、啓蒙へと続く暗い道を思慮深く警告するものである。

By Arielle Gordon · September 18, 2020

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