海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Nicole Mitchell & Lisa E. Harris, “EarthSeed”

2006年の冬、アメリカが凄惨な戦争と国外のテロに巻き込まれ、国内では広大な監視体制が作り上げられていたころ、文筆家でアフロフューチャリストであったOctavia Butlerが亡くなった。それから14年後、彼女が想像し、そして恐れた、紛争によって分断された権威主義の到来というのは日を経るごとに信憑性を増しているように感じられる。

2017年の夏、フルート奏者/作曲家のNicole Mitchellとヴォーカリスト/作曲家のLisa E. Harrisはシカゴ美術館の舞台に立ち、この『EarthSeed』を録音した。この作品はButlerの同名のSFシリーズにインスパイアされたもので、彼女が予測した恐怖を急進的で創造的な音楽を用いて描くことで、彼女の先見の明をたたえようとする試みであった。

このパフォーマンスはMitchellによるフルートの豊かなトーンを中心においた物悲しく、鋭い“Evernasence/Evanescence”で幕を開ける。ここでの彼女の演奏は広範囲にわたるものでありながら探求的なものでもある。“Whispering Flame”ではHarrisとJulian Otisによるドラマティックなヴォーカル・デュエット、そしてTomeka Reidによる実に独創的なチェロの演奏によって深遠で暗い雰囲気が作り上げられる。“Whole Black Collision”ではZara Zaharievaによる刺すようなヴァイオリンとBen LaMar Gayのトランペットが、脈打つ電子音の波にもまれていく。『EarthSeed』を通して、Mitchell、Harris、そして二人が集めたアンサンブルはジャズと、それぞれが持つ独特な即興演奏のスタイルの間の恣意的なラインを吹き飛ばしてしまう。大胆で、幻想的で、きわめて風変わりなこの音楽は時に、現在のわれわれに根拠を与えてくれるような深く瞑想的なハミングに落ち着くこともあれば、不確実な未来から聞こえてくる原初的な叫び声のように爆発することもある。

By John Morrison · June 24, 2020

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