海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>TJO, “Songs for Peacock”

Tara Jane O'Neilの「省略の美学」によるギターの抽象化の長年のファンであろうが、今日まで彼女の名前を聞いたことがなかろうが、『Songs for Peacock』に現れる数少ない音のそれぞれを認知するのには数秒もかからないだろう。O'Neilの蛍光色のギターがSiouxsie and the Bansheeの “Happy House” の耳から離れないベースラインを真似ていることにはすぐに気がつくだろうが、しばらく経ったあと彼女は歌詞の中をこっそりと動き回り、オリジナル曲が持つ国内への風刺をさらに強化するような沈み込んだトーンで歌う。もしくは、彼女のスパゲティ・ウェスタン的な6弦の音の中にBoy Georgeの “Crying Game” がもつ催眠的な揺れを聞きつけるが、その後に彼女は破滅的なヴァースを溜息をつくように歌い始める。

『Songs for Peacock』はO'Neilによる物悲しげなカヴァー・コレクションであるとともに、昨年なくなった彼女の兄・Brianへの愛のこもったミックステープでもある。ドラム・マシンやシンプルなエレクトロニクス、メランコリックなギターを用いて、O'Neilは共に過ごした思春期からの楽曲を再訪し、歳を重ねるにつれてその曲たちが経た、感情的に複雑な変化を自画像的に描き出している。

Bananramaの “Cruel Summer” やINXSの “Don't Change” といった曲では、O'Neilは忠実なヴァージョンを作ることに関心がないようだ。これらの曲は単なる回想のための餌でしかなく、純粋だった思春期とおとなになってからの敬虔の間にある矢印に過ぎない。彼女は前者で、リズム・セクションの下に自分の声を二重三重に重ね、まるで鏡の館の幻覚のようなリアレンジを施し、まるでガムランのバンドが数マイル先で演奏しているかのような音像を作り上げる。そして彼女は後者ではゆっくりと歩みを進め、勝利の信念を歌ったオリジナルの4分間を、我々をしすべき運命に仕立て上げる脆さについての7分間の悲劇的な瞑想に引き伸ばしている。Depeche Modeの “Everything Counts” をメロディカで37秒に要約したカヴァーは、彼女が誰に聞かせるでもなくこの曲に合わせてハミングする様子を思い起こさせる。Aztec Cameraの “Oblivious” の90秒間の断片にのこぎりの葉のようなソロを付け加えている。それはまるで、ステージのまばゆい光のもとにいつか立つことを夢見ている、10代の「未来のギター・ヒーロー」のようでもある。

O'Neilがすでにインディー・ロックのキャリアを5年ほど積んだあとにリリースされている、Cherの “Believe” は、80年代に重点を置いたこのリストの中では少し浮いている。しかしO'Neilの悲しげなオルガンの演出が、この『Songs for Peacock』という作品の前提を典型的にまとめ上げている:私達が楽曲をどのように聞き、内面化し、覚えているかというのは、その曲が実際にどのようなサウンドであるのかと同じくらい大事になることがある、ということだ。この作品が示唆しているのは、結局の所音楽が一番大事だということ、なぜならそれは私達が生き抜いてきた時代の承認であるからである、ということだ。

By Grayson Haver Currin · July 09, 2020

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