海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Kaitlyn Aurelia Smith, “The Mosaic Of Transformation”

Kaitlyn Aurelia Smithが作る音楽は、予め迷子になるように設計されている――曲ごとに催眠度を増していく、浮力のあるシンセと瞑想的なマントラが作り出す結晶質の世界。大抵の場合はじゃまにならないように作られていることが多い――家で環境音として流すこともできるかも知れない。しかしSmithが作る曲はあまりにも魅惑的で、知らず識らずのうちに引き寄せられているものである。それらはようやく涅槃にたどり着いた、疲れ果てた魂の音なのである。

Smithの新しいアルバム『The Mosaic of Transformation』は電気を祝福する作品である――壁や配線の中を流れている電流それだけではなく、Smithの体を通り抜けて彼女のモジュラー・シンセサイザーに入り、そして楽曲が作られるとそこから空気中に放たれていくそれも含まれている。この作品に取り掛かっている最中、Smithは周波数を見ることができる体の動きを独学で習得した。「そのインスピレーションが、まるで喜びの泡のようにとつぜんやってきた」と彼女はアルバムのノートに記している。「それはシームレスに変化している多くの種類の形を伴っていた」と。『The Mosaic of Transformation』も同じように感じられる:一つひとつの音が次の音へとゆっくりと変態を遂げていく、音の連なり。1曲目の“Ubraiding Boudless Energy Within Boudaries”はそのいい例だ:音の泡と突進するシンセが水に浮かぶ体のイメージを想起させる。“Remembering”は、クラシックの弦楽器・管楽器をブレンドすることによって癒やされるようなインストとなっているが、3分30秒ころからSmithのヴォーカルが入り、彼女の甘美なソプラノがリズムの中で浮遊する。彼女は歌詞を歌っているのではない:そうではなく、彼女はただ優しくハミングし、その静かなトーンで落ち着いた雰囲気を伝えているのだ。

『The Mosaic of Transformation』を聴く最良の方法はノイズ・キャンセリングのヘッドホンで、はじめから最後まで通して聴くことである。しかし続けて聴くことが前提となった作りではあるが――気を抜くといつの間にか5曲目になっていたりする――この作品は深く分解して聴くことが求められるような突出した曲ばかり収められている。“Carrying Gravity”はアルバム中盤に収録されたオーケストラル曲であるが、眠りの状態から新しいレベルの意識へと上昇するような、そのような「目覚め」を呼びかける信号のようにも聴こえる。“The Spine Is Quiet In The Center”ではSmithは前述の「目覚め」の最中であり、ストリングスやシンセ、バッキング・ヴォーカルが新しい夜明けを感じさせるように明るさを増す。そして続くのが“Expanding Electricity”、このアルバムを大きな部分を占める10分の大曲である。Smithはこの曲にすべてを投げ出していて、人間の体を完全な形で再現するようにデザインされた一つの長い曲を作り上げている。この曲はアルバムの最高の曲であるだけでなく、スミスの思想が凝縮されているものでもある:すべての電気が結びついたその集積は、魔法の芸術を作るためにあるのだ。

By Marcus J. Moore · May 15, 2020

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