海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album Of The Day>Dana Jean Phoenix & Powernerd, “Megawave”

トロントのシンセ妖婦・Dana Jean Phoenixとウィーンを拠点とするバンド・Powernerdは『Megawave』で結託し、それぞれの武器庫に格納されていた妙技を全て解き放っている。長いフィルター・スウィープ、図太い方形波のベースライン、中毒性のあるコーラス、そしてめまいがするようなソロ―すべてがここに詰まっている。『Megawave』で、PhoenixとPowernerdはフレンチ・ハウスのアイコニックなサウンドからフューチャー・ファンクの朦朧としたビートに至るまで、シンセが中心となったダンス・ミュージックの歴史から技術をいいとこ取りしている。一つ一つの楽曲にカラフルなシンセのハーモニーがにじみ出ていて、とてつもなく楽しく、高揚感が持続し、ドーパ人がほとばしるような作品に仕上がっている。

Phoenixが同世代のシンセウェイヴ・アーティストと異なるのは彼女のヴォーカルである。捻じ曲げられたサンプルに頼ることが当たり前となっているジャンルの中で、彼女の比較的加工されていない声がまばゆいメロディを舞い上がっていくのを聴くのは新鮮な気分である:ロボティック/ノスタルジックに感じられる音楽を人間的に響かせているのだ。アルバムのタイトル・トラックでは、「私達の愛はメガウェイヴである」という宣言を頂点とし、グルーヴィーなマレットのビートが上昇と加工を優しく繰り返す。作品の後半では、PhoenixとPowernerdはNew ArcadesとStraplockedに“Figure Me Out”とコミカルな“Fight These Robots”のリミックスを依頼している。Straplockedはゆったりとしたミックスとどっしりしたテンポ、不吉な魅力を持つパーカッションで意表を突いてくる。シンセウェイヴのノスタルジックな要素をダイナミックな幅広さと感情の機微で強化することによって、PhoenixとPowernerdはこのサブジャンルが持つネオンがきらびやかなスペクタクルの中に埋め込まれた繊細さを掘り起こし、レベルアップしたサウンドに相応しい強固な基盤を構築している。

By Samuel Tornow · April 22, 2020

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