海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Populous, “W”

イタリア人の音楽学者であり電子音楽のプロデューサーでもあるAndrea Mangia(アーティスト名はPopulous)は、国際的なエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて、多くの異なるジャンルを横断するような巧みで絶妙なダンス・トラックを作ることで名を挙げてきた。Mangiaの楽曲の中では、ダンスホール、ヴォーグ、デジタル・クンビア、アンビエント、そしてラテン・アメリカン・フォルクローレ…これら全てが共存し、彼はこれらを巧みに集結させ、決してそれをただの装飾として用いたり、安っぽい表象の仕方をすることはない。その代わり、彼が作る音楽は、これら多様な糸を編み合わせ、南アフリカとヨーロッパ南部の間のどこかに浮かんでいるようだ。最新作『W』でもその音楽的ナラティヴは継続しているが、一つ重要なひねりが効いている:10曲の収録曲はそれぞれイタリアや南アフリカ電子音楽の大物たち――その全てが自分を女性であると辞任している――と共作したものである。『W』を聴けばMangiaの世界への新たな入口となるだろう:その形式や表現の中にあるフェミニンなエネルギーが力づけられ、祝福され、恐れられ、尊敬され、愛される。そんな世界への。

このアルバムはアルゼンチンのドリーム・ポップ/アンビエントのアーティスト=Sobrenadarとのコラボ“Diesierto”で幕を開ける。身体と自然の共生、そしてそれに伴う官能性についての歌詞を吐息混じりの幽霊のような声で歌い上げている。起伏のある曲で、どっしりとしてレイヤーがかったビートと柔らかくてメロディックな楽句の間を放浪するような曲だ。“Soy Lo Que Soy”ではメキシコの二人組=Sotomayorの軽快なヴォーカルがドシンとしたベースのリズムとひらひらと舞うスパニッシュ・ギターの上で渦を巻きながら歌っている。光と闇、秘術と神秘、そして自由なセクシャリティの表裏一体性を描いた“Flores No Mar”と“House of Keta”という強力な2曲でアルバムは頂点に達する。イタロ・ブラジリアンのシンガー=Emmanuelleの豊かなアルトで歌われる“Flores No Mar”はカンドンブレの女神で船乗りたちの守護者であり女性らしさの象徴でもあるイマンジャに捧げられた、リズム主体の楽曲である。“House of Keta”はイタリアのゲイ・アイコン=M¥SS KETAをフィーチャーしていて、そのひれ伏させるようなヴォーカル――「私の家、私のルール、私の喜び」――が、新しいボールルーム・クラシックになる値打ちのあるこの喜びに満ちたアンセムを力づけている。『W』でPupulousは精神的、感情的、性的、美的なあらゆる形での自由を、異性愛規範的な男らしさの束縛から解き放つ。その解放の至福のサウンドは、その一瞬一瞬を貫いている。

By Amaya Garcia · May 19, 2020

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