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<Bandcamp Album of the Day>Butcher Brown, “#KingButch”

このヴァージニア州リッチモンドを拠点に活動する5人組=Butcher Brownの音楽の根っこにあるのはファンクであるというとき、それは正しくこそあれ、十分ではない。彼らはBiggie SmallsからBob Jamesに至るまで幅広いアーティストをカヴァーしているし、Fela Kutiに丸々一枚ささげられたトリビュートも作っているし、Kamasi Washingtonのオープニング・アクトに抜擢されているし、Little Richardの “Rip It Up” を現代風にアレンジしたものを『Monday Night Football』に提供しているのだから。

彼らの8作目となる『#KingButch』は前作『Camden Sessions』と同じように、器用に作られたファンク・チューンがぎっしりと詰まった作品であるが、彼らのライヴを考えればメロウさがまし、ロック色が薄れているといえる。スタイル的には、幅広い音を鳴らすその姿勢に変化はない。“For The City” はFly Anakinをフィーチャーした朗らかで粘着質のサウス・ヒップホップであるし、“Frontline” はスムース・ジャズから少し脂身を取り除いたような楽曲だ。彼らの真骨頂は60~70年代のジャズやファンクのグルーヴを21世紀的に解釈する点だ。1975年のR&Bジャズの名曲 “Tidal Wave” のカヴァーにはそれをサンプルした多くのラップ楽曲の一つ—Black Moonの “Who Got the Props?”―から数小節含まれており、その後のMarcus Tenneyによるホーン(Freddie HubbardやStanley Turrentineが70年代にCTIに吹き込んだような雰囲気がある)へと見事につながっていく。

端的に言えば、このバンドは自分たちが受けた影響を隠しておらず(簡潔で、素晴らしくどろどろとした “Fonkadelic” は『Fresh』期のSly and the Family StoneほどP-Funkらしくはないとはいえ)、“Cabbage (DFC)” はEarth, Wind & Fireによる元気いっぱいのホーンと観覧車のようなうっとりさを受け継いだものであるし、“1992” はポケット版のニュー・ジャック・スウィングのようである。

しかし、Butcher Brownのやり口は単に「懐古趣味」で片付けられるものではない。キーボード奏者/MCのDevonne Harris率いるこのバンドは、ある種のコミュニティのような地場で演奏していて、リフやグルーヴを単に印象的である以上に磨き上げていく共通の愛や同族間で働く本能のようなものが存在しているように感じられる。ドラマーのCorey FonvilleとベーシストのAndrew Randazzoによる鉄壁のリズム・セクションのおかげで、彼らはジャム・バンド的な自由さとファンク的なカッチリ感の間を自由に行き来することができる。そして輝かしい学歴もあって、彼らはどんな時代の音楽のテクスチャであっても、作り手が完璧に音頭を制御することによって生々しく、ジューシーで、ふわっと焼き上げたり、液状化させたりすることができるということを知っているのだ。

By Britt Robson · September 16, 2020

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