海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Weekly Music Review #8: MONOEYES『Between the Black and Gray』

見出し画像

「あの頃」聴いてた音楽に対するアンビバレントな気持ち

「はじめてちゃんと聴いたんだけど、あんなダサかったんだね(笑)」
2019年のフジロック初日、宿に返ってから一緒に行った先輩と話していると、彼はそんな言葉を言い放った。言うまでもなく、ELLEGARDENの話である。その日の夕方、メインステージであるGREEN STAGEに立つ彼らの姿を、実はぼくも見ていた。ステージからかなり離れた奥の方で、椅子に座って、長距離の運転で固まった体をぐっと伸ばしながら、ではあったが。その距離のとり方は、ELLEGARDENを始めとする「あの頃」聴いていた音楽に対する心の距離に置き換えても良いのかもしれない。
 ELLEGARDENのアルバムはどれも通して聴いたことがない。それでもあの日彼らがやっていた曲のどれもに聞き覚えがあったのは、僕が田舎の高校の軽音楽部で3年間の高校生活を送ったからだ。どのライブにもELLEGARDENコピーバンドが1組はいたし、ぼく自身も何曲かやったことがある。「Supernova」のサビ前のスネアロールを練習する先輩を飽きるほど見ていたし、「ジターバグ」の歌い出しに歓喜する観客を何度も見てきた。彼らの作品と真正面から向き合おうと思ったことはついぞなかったけれど。

youtu.be

だからELLEGARDENというバンドに思い入れはなくとも、思い出はたくさんある。だからフジロックでも一応見ておこうと思ったのだ。事実、「Fire Cracker」なんかはちょっとグッと来たし。それでも冒頭、その先輩の発言に対してぼくは「まあ、そうっすよね(笑)」と答えるしかなかった。でもそれは100%偽った発言でもなかったし、100%の本音でもなかった。
 田舎の高校から東京に出て、大学生活を送り、社会人になる中で聞く音楽はガラッと変わった。「あの頃」聴いていた音楽がいわゆる「ダサい」とされる音楽(ある層の音楽ファンからは)だったこともわかってきた。それでも、ぼくにはそういう音楽をこっそり聴いてしまう日がある。ELLEGARDEN9mm Parabellum Bulletマキシマム・ザ・ホルモン凛として時雨Linkin Park、Sum 41、MuseHoobastank…「あの頃」聴いていた音楽にはなんの誇張でもなく「魔法」みたいなものがあって、記憶がブワっとフラッシュバックするし、そこに取り残されてしまったままになっている人の気持ちもわからんでもないな、という気持ちにすらなる。でもしばらくするとそんな自分に抗いたくなって、「今のぼくがかっこいいと思ってるのはこれなんだ!」と真逆の楽曲に飛んでいくのだ。

2020年にMONOEYESを聴く意義

ぼくは94年生まれで、ELLEGARDENをリアルタイムで体験したわけではない。でも2009年から細美武士が始動させたソロ・プロジェクトthe HIATUS(改めて見ると「(活動)休止」ってすげえ名前だなとは思う)はほぼリアルタイムで通ってきた世代である。作を追うごとに実験性を増していくあたりは好感をもっていて、作品が出れば一通り聴いてきた。好きな楽曲も少なくない。

youtu.be

ノイジーでヘヴィなロックからアコースティックな音色が中心の曲、エレクトロニクスを駆使した現行インディー・ポップに接近した曲、最近ではR&B風のものまで極めて幅広い作風で活動してきたthe HIATUS
 でも今回改めて聞いてみると、「ロックバンドのサウンドデザインを更新したいと思い続けて」きたと語る割に、細美の声がドカッと中心に鎮座しているような設計はここ10年で全くと言っていいほど進化していなくて、たしかにこれはダサいかもな、と思ってしまったのだった。もっとヴォーカルが後ろの方に引いて、バンド全体のサウンドと混沌一体となったアンビエンスを醸し出す…みたいなものが2010年代のロックのトレンドだったわけで、それが「更新」だった。それがthe HIATUSには全然出来ていない。最新作でも。
 そんな中で2015年に活動を開始したもう一つのバンド=MONOEYESthe HIATUSの活動に対するカウンターというか、ELLEGARDENへのカウンターとしてのthe HIATUSへのカウンターって、それはもうもとに戻ってませんか?というようなそんなバンドだ。だから「ロックバンドは、まだこんなにも進化できる」みたいな文言が載った雑誌の表紙を見ると「何を聴いているの?」と思ってしまうのだけれど、それはそういうエコシステムの中で吐き出される呼気なのだから「そういうものだ」と思うしかない。
 3作目となるこの『Between the Black and Gray』だけれど、特に1stから変化したところはない。ELLEGARDENみたいな、シンプルでキャッチーで「(邦)ロック」っぽい楽曲がズラッと並ぶ。「新たなフェイズに入ったバンドの姿を示す〜」というApple Musicのリード文も虚しく響く。ここにあるのはオリジナリティもカリスマ性も失った過去の音楽の焼き直しであって、2020年に新しく作られて聴かれる意義のある音楽ではない。今日発表されたBon Joviの新譜みたいなもので、既存のファンだけが聴いて喜ぶ類の商品だ。これはそういうエコシステムの中で吐き出される呼気なのだ。

まとめ

今回いろいろなインタビュー記事にも目を通したのだけれど、取ってつけたような「ロックバンドマン」みたいなアティテュードが2020年に全開で、超ホモソーシャル的だしキツいなと思ってしまった。こういう「俺らいつまでもガキっしょ」的なところに憧れる人がまだまだいるということなのだろう。事実今年結婚を発表したときに「ショック〜〜」みたいなリアクションをとっていた人の中にはぼくより年下の人もいたし。
 だからMONOEYESの新譜を聴いて「かっこいい!」と思ったのであればそれでいいし、もうそれは誇って良いことだと思う。こういう音楽が人一倍大好きだということだから。好きなものに自信を持って、そのかけがえない時を過ごしてほしい。「あの頃」聴いていた音楽、なんてフォルダに入れずに。まっすぐに、行けよ〜〜!