海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Kizis, “Tidibàbide / Turn”

Kizisが『Tidibàbide / Turn』でコラボレートしたアーティストは膨大な数である。多岐にわたる、3時間半の大作の中で、Kizisーー以前はMich Cotaとして活動していた、アルゴンキン語族の「Two-Spirit(先住民の“第三の性”)」のアーティストーーはタイトなエレクトロニック・ポップからルースな実験的な物語上の装飾に至るまで、その中で自身の声を操作している。彼女が自分のボーカルを歌って、切り貼りして、ピッチを変えて、ループさせる一方で、彼女は他のボーカリストのプリズムのようなコーラスにも加わっている。その中にはカナダのシンガー/シンセサイザー奏者=Beverly Glenn-Copelandも含まれている。最近のColin SelfやElysia Cramptonの作品のように、『Tidibàbide / Turn』はトランスジェンダーの自己の内部の安全と楽しみを確保する過程を研究している。そしてその先、その豊穣がどこに行き着くのか、そしてそれが集団の中に復帰した際にいかに交互に満ちたり引いたりするのかをも射程に入れている。

アルバムの中ではほろ苦い記憶の端々が立ち上がる。例えば “Brianna” ではトランスジェンダーとして過ごした幼少期に友情関係を作り上げていく心を打つような物語が語られる。また、ダンス・ポップの奔流 “In Our House” のように、キラキラと煌めく放蕩の瞬間もあったりする。「ハーモニーの中で砕け散るために/私達は自分の形を結晶にする」と歌う彼女は、達成の喜びと崩壊の苦しみを同時に表現している。『Tidibàbide / Turn』はその捉えがたい、人生をかけて我々が経験するプロセスを追い求めている:自己を作り上げては作り直すこと、自分を作り上げては他者と関わろうとする試みの中で打ち砕かれること。そしてその中で単一の、そして共有された意識の謎を解き明かし得てもいるのだ。

By Sasha Geffen · February 16, 2021

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