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<Bandcamp Album Of The Day>Snarls, “Burst”

オハイオ州コロンバスにはいくつかの自慢の種がある―州都であり、大学フットボールのメッカであり、ファストフード・チェーンの試験場でもある―が、オハイオ州のもつロックンロールの業績は申し分ない一方、この州で最大の都市であるコロンバスにはクリーヴランドやデイトンのようなインディー・ロック・ヒーローが不在であった。90年代のScrawlやゼロ年代のTimes New Vikingは質の高いノイジー・ポップを世に送り出してはきたが、である。そこに登場したのがコロンバスの若武者Snarlsの優れた初フル・アルバム『Burst』である。“Walk in the Woods”や“Marbles”はこのフック重視の10曲のコレクションのトーンを定め、その甘さによってノックアウト級のコーラスに着地する前に聞き手の警戒を解除してしまう。強力な1〜2曲めとアルバムを締めくくるタイトル・トラックの間で、この『Burst』は1曲あたりの平均は3分半と一貫して簡潔だが、サウンドの面そして作曲の面でかなり多様な作品である。

ガシャガシャと音を立てる“What's It Take”では、この4人組のバンドは二つのヴァースとコーラスを行き来し、曲を突然中断し、テンポを半分にし、オーヴァードライヴを切ってしばらく至福の時を過ごす。がむしゃらな“Hair”や苦悶に満ちた“Concrete”ではシンガー/ギタリストのChlo Whiteによる図太いヴォーカル(飾り気のなさという意味でCobain風である)を聴くことができる。メロディーはSnarlsが重要視している部分ではあるのだが、くり返し聞くことによって『Burst』がいかに考え抜かれて作られたのかということがよく分かる。カラフルなダブル・ギターの絡みや空に舞い上がるような3声・4声のハーモニー、素朴な録音、そしてそれ全体が伝えるムード:率直だが、決して凝りすぎてはいない。インディー・ロックが復権してきていることを物語るこの作品は、この使い古されたサウンドの最良の新しい変種がその黄金時代にはまだ生まれていなかった世代から出てきていることを示している。もしあなたが30歳以上ならVelocity Girlの隣に、それよりも若ければSnail Mailの隣にファイルしておくこと。

By Charlie Zaillian · March 12, 2020

Snarls, “Burst” | Bandcamp Daily