<Bandcamp Album of the Day>Kamaal Williams, “Wu Hen”
ロンドンを30年もの間特徴づけてきたアンダーグラウンド・ダンス・クラブ・シーン向けにジャズ・フュージョンの「フュージョン」の部分を再定義すること。それがYussef Kamaalの果たした役割であり、Kamaal Williamsはその片割れとして名を挙げた。彼の2018年のソロ・デビュー作『The Return』では、このキーボーディストはそのフュージョンのダンス・ミュージックとしての側面を激化させていた。その続編となる『Wu Hen』で、Williamsはジャズに真正面から向き合い、少なくとも1曲のアコースティック・スウィンガー “Pigalle” を作り上げ、アルバム全体にもジャズ的なハーモニーが散りばめられている――その中にはゲストのMiguel Atwood-Fergusonのヴァイオリン、ヴィオラ、そしてチェロによって弦楽器ジャズの言語を適応している3曲も含まれている。
とはいえ、Williamsがロンドンの、ヒップホップの流れをくんだEDMから学び取ったものはこの『Wu Hen』でも前面に押し出されている。“Pigalle” はその後半ですろうなファンクへと姿を変え、ドラマーのGreg PaulはJames Brownの “Funky Drummer” のリック(そのサンプルはこの40年間のヒップホップとダンス・ミュージックの中に息づいている)を模倣している。その他にも、“1989” と “Save Me” はそのルーツをアシッド・ジャズやUKガレージに見出すことができるし、Williamsはその感覚を彼の特徴である、めまいをさせるような朦朧としたシンセのラインで満たしている。“Mr. Wu” ではジャングルやグライムのグルーヴをも埋め込み、ハウス・ビートに耳障りなエレクトロニックのテクスチャを加えることで推進力を高めている。
しかし、ハーモニーとスウィングはWilliamsがジャズを統合するに当たって用いた真の手段ではない。Quinn MasonによるGat Barbieri風のテナー・サックスが定期的に現れることもトリックとして機能しているわけではない。ジャズはムードの中に現れている。それは “Toulouse” のトリップ・ホップや ”Hold On” のスロウジャム・R&B(とLauren Faithの取り付くようなヴォーカル)の中に潜む、レンブラント絵画の中の茶色のコートのような、煙たい真夜中の雰囲気である。そのほのめかしには最新の注意が払われているが、完全というわけではない。『Wu Hen』の他の楽曲と対照的に、ともすると浮いているようにも感じられる、ビートレスでサックスの即興と電子音のガーゼに覆われた最後の ”Early Prayer” にたどり着く頃には、アルバムの終わり方としてこれ以外のものを想像することはできなくなっている。これはリスクと伝統の見事なブレンドであり、絶対的な高揚感がある。
By Michael J. West · July 24, 2020