海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Rïcïnn, “Nereïd”

フランスのアーティスト=Laure Le Prunenecは伝統に縛られることを拒絶する。彼女は2016年のインタヴューでこう語っている。「私はいつも自分の声を使って実験をしている。それはジャンルを問わない。ジャズから電子音楽まで、そこには今底で鳴らされている音への認識以外になんの制限もない」。彼女の主張を証明する2つの仕事がある:ドゥーム・メタル・バンド=Öxxö Xööxのボーカリストとして彼女は嵐のようなリフの背後で泣き叫び、咆哮する。しかしRïcïnn名義での彼女の作品はそれとは全く異なるもので、カテゴリーの境界線を拒否してきた女性ボーカリストたちの長い系譜に連なるものである。Le Prunenecの声は最もカオティックで前衛的だった頃のDiamanda Galásを思い出させつつ、幽霊がつきまとうような美しさはKate BushDead Can DanceのLisa Gerrardにも通じるところがある。2016年の『Lïan』に次ぐ作品であるこの『Nereïd』で、Le Prunenecはそのフェミニンな力を引き出す新たな方法を見出している。

音楽的には、『Nereïd』には影が多く、不吉な雰囲気である。アトモスフェリックな音のモザイクが絹のようなメランコリーに包まれており、墓地のような暗闇の中に佇んでいる。時折彼女のドゥーム・メタル的バックグラウンドを思い出させる瞬間もあるが――特に残忍なグロウルとクラッシュ・シンバルによるけたたましい盛り上がりを見せる “Doris” はそうだ――、全体的なムードは概ねダークなものである。楽曲は影のある、繊細な蜘蛛の糸と幽霊のような旋風でくるまれていて、Le Prunenecの声がアルバムの中心的な位置を占めている。“Nereïd” でのプリミティヴなチャントとヴァイオリンから、“Missäe” の葬儀のように厳かなオルガンに至るまで、Rïcïnnはゴシックのエレガントさを生々しい感情を通じて伝えている。“Söre” はまるでろうそくが灯された大聖堂で響き渡るように書かれたかのように感じるし、“Psamatäe” は吸血鬼のような血の儀式にピッタリの、豪勢で不吉なサウンドトラックたりえる。この2曲はどちらも過激でありながらスピリチュアルでもある。心をかき乱すようなノイズから不気味な沈黙まで、『Nereïd』にはすべての種類のダークさが詰め込まれている。

By Andi Harriman · October 23, 2020

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