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<Bandcamp Album of the Day>SAULT, “UNTITLED (Black Is)”

1965年、マルコムXの暗殺事件を受けて、詩人・オーガナイザー・文化評論家であるAmiri Barakaはアメリカ黒人の義憤を結晶化し "Black Art" という詩を書いた。後の文化の礎となったこの詩の中でBarakaは主に黒人解放のために使用される革命的な黒人的美学を主張した。この詩の最も有名な一節の中でBarakaはヨーロッパ的な「芸術のための芸術」という概念を拒み、白人至上主義と資本主義、そしてそれを支える警察に対して宣戦布告をする詩を要求した。"We want poems that kill(人を殺すような詩を求めている)" と彼は書いた。"Assassin poems, Poems that shoot guns. Poems that wrestle cops into alleys and take their weapons leaving them dead(暗殺する詩、銃を撃つ詩。警官を路地に追い込み、武器を取り上げ、死なせてしまう詩)"と。

SAULTの最新リリース "Untitled (Black Is)" が苦境のために作られた "Black art" であることはその始まり方から明らかである。ブラック・パワー時代、そしてあの時代が作り上げた急進的なエネルギーへの目配せをする中で、 "Untitled (Black Is)" は "Out The Lies" で幕を開ける。"Revolution has come! Still won't put down the gun!(革命の時は来た!まだ武器は捨てない!)"(当時ブラック・パンサー党が行動時に使用していたリフレイン)という轟くようなチャントに続き、この曲は仄暗いピアノとスポークン・ワードのセクションに移り、反ブラックが浸透したこの世界で黒人であることにつきまとう美、楽しみ、そして抵抗について語られる。“Black is safety, Black is benevolence, Black is a lifeboat after an SOS…and when everything else fails, Black endures(”ブラックとは安全であり、ブラックとは慈悲の心であり、ブラックとはSOSの後に駆けつける救命ボートである…そして他のすべてが失敗に終わった時も、ブラックは耐えて存在し続けるのだ)”。

アルバムは、分厚く、ミッドテンポで、ピシャリと叩くようなドラムとヘヴィなベースラインがヘッドバングを誘う "Stop Dem" でフル加速に入る。この曲の重ねられたギャング・ヴォーカルもチャントの形式をとっており、炎と憤りに満ちている。"Even though we know that you fear us, that ain't no reason to kill us.(あなた方が我々を恐れているのは知っているが、だからと言ってそれは我々を殺す理由にはならない)"。"Wildfires" ではドリーミーで響き渡るようなグルーヴが、ブラック・コミュニティに対する長きにわたるテロ作戦にまつわる焦げ付くような告発の背景として用いられている。"You should be ashamed / the bloodshed on your hands(あなた方は恥ずべきだ/あなた方の手を汚す流血を)" とヴォーカリストは歌う。"Take off your badge / We all know it was murder / Murder, murder / Murder(バッジを取れ/あれが殺人だったことはみんなわかっている/殺人だ、殺人/殺人だ)"。

Michael Kiwanukaをゲストに迎えた "Bow" では、黒人の命を守り肯定するというSAULTのミッションがその最も論理的で汎ディアスポラ的な結論にたどり着く。泡立つようなアフロビートのグルーヴに乗せてKiwanukaは世界中の黒人の新属性と連帯を称えるアンセムを歌う。“Answer to Kenya/ Check in with Uganda/ Remember Rwanda/ I see Tanzania/ From Verde to Ghana/ Take care of Somalia/ Free Sudan/ Blood thicker than water(ケニアに答えを/ウガンダにチェックインを/ルワンダを忘れるな/タンザニアが見える/ヴェルデからガーナまで/ソマリアを気にかけて/スーダンを開放せよ/血は水よりも濃いのだから)”。

このアルバムの主題がタイムリーであることは言を俟たない。しかしこのアルバムの保つ力の違う側面というのは、"Untitled" はこれまでの何世紀にも渡るブラック・アートへの接続が感じられるという点である。Barakaが65年に思い出させたように、ブラック・アートとクリエイティヴィティは反抗の武器として用いられなければならない。"Ultitled (Black Is)" はときに肯定として働き、私達が持つ奪うことのできない美と力を説く。またある時にはこれらの楽曲は抗議の形を取り、私達の怒りと痛みを伝え、新しくより良い世界を描いた表現手段として機能するのである。

By John Morrison · July 01, 2020

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