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<Bandcamp Album of the Day>Brother Theotis Taylor, “Brother Theotis Taylor”

92歳のスピリチュアル・シンガー、Brother Theotis Taylorは60年以上に渡ってジョージア州フィッツジェラルドに住んでいる。人生の大部分の間、彼は家族とともに、気を切ってテレピン油を作るという仕事をしていた。そのファミリー・ビジネスの他に、Taylorはゴスペルの楽曲を広げるということに貢献し、彼の父や祖父から受け継がれてきた精神的・音楽的遺産を続けてきた。『Brother Theotis Taylor』はTaylorが自宅のピアノの上に置いたリール・トゥ・リールのレコーダーで宅録した楽曲のコレクションで、深いスピリチュアルな力と共に親密な演奏が聴ける。

アルバムの幕を開けるのは、人生の重要性についての厭世的な瞑想を歌った “Somebody's Gone” である。ピアノの上で、Taylorは過ぎ去った年月を回想し、次々に過ぎ去っていく一瞬一瞬の中で唯一確実で絶え間なく続いているのは死だけであると綴る。彼は自分のメッセージを事実を淡々と告げるように歌う:“Nineteen hundred seventy three. It could’ve been you, it could’ve been me. Every time you look around, somebody gone.(1973人、それはあなたかも知れなかったし、ぼくかも知れなかった。周りを見渡すたび、誰かが去っていく)”。声とギターの音だけで構成されている “Let Nothing Separate Me” は情熱的な礼拝の歌であり、その中でTaylorはこれほどまでに混乱と喪失で溢れた世の中にあって神との親しさを保つことに苦しんでいる。不意に突き刺すように張り上げる彼のファルセットは、我々の痛みの深さの淵から精神的恍惚の高みまで連れて行ってくれる。

ほろ苦い “Burden Away” や古いゴスペルのスタンダードのカバー “Swing Low, Sweet Chariot” などの楽曲で、Taylorの神にに対する深く永続的な愛が曲の中で光っている。ここに収められた音楽が超越的であると感じるのならば、それは意図的なものである:Taylorの音楽は精神的な情熱によってエネルギーを得ていて、死や生よりも大きなものに対する信仰で燃え盛っているのである。

By John Morrison · June 30, 2020

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