海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>SAULT, “UNTITLED (Rise)”

イギリスの正体不明のコレクティヴ=SAULTは、昨年どこからともなく表れたかと思いきや、この12か月の間に誰にも止められない一大勢力となっている。この集団にかかわっているミュージシャンの正体は全くの不明であるが、それは重要なことではない――彼らは批評的に成功を収めた4枚のアルバムを発表しており、そのうち二つはわずか12週間の間に発表された。今年の6月に彼らは2枚組アルバム『UNTITLED (Black Is)』を発表した。ソウル、ファンク、スポークン・ワード、そしてドリル・チャントなど幅広い楽曲が収められたこの作品はブラックであるという体験、その美しさと様々な栄光に焦点があてられたものだった。しかしその美しさの背後で、『UNTITLED (Black Is)』は悲しみ、気づき、そしてとくにアメリカにおいて黒人が日常的に経験している不正義や暴力の告発に満ちた、闘争的な一面を持った作品でもあった。この作品がJuneteenthの日にリリースされたのは決して偶然ではない。そこに収められた楽曲群はGeorge Floyd、Breonna Taylor、Ahmaud Arbery、そしてその他大勢の警察によって殺害されたアフリカン・アメリカンたちの死に対する直接的な返答であるように感じられた。

UNTITLED (Black Is)』が反抗の物語であるとするならば、SAULTの最新作『UNTITLED (Rise)』は警戒されながら行われる祝祭のようであり、人々の傷を癒し、黒人の命と黒人の文化を称揚するような一枚である。この作品全体を貫く精神が、ファンクとブラジルのバトゥカーダを掛け合わせたような一曲 “The Beginning & The End” の歌詞の最後で要約されている。「我々は喜びを取り戻す/強さを再び奮い起こす/何千もの先祖たちの涙に浸されたこの1000年間を経て/我々は立ち上がる/始まりがそうであったように、最後にもまた立ち上がるのである」。この喜びと回復が極めてダンスフロア向けの作品の中で主張されているのは意図的なものであろう:音楽とダンスはブラック・ディアスポラたちの反逆の手段であり続けてきたからだ。ディスコ~70年代ファンク風のバンガー “Fearless” やダブ~ファンク、シンセが効果的に使われている “I Just Want To Dance”、そしてモータウン風の “Street Fighter” といった楽曲は、パーティー・ジャムに変装した行動の呼びかけであり、構造的な抑圧に屈しない不敵さを鼓舞している。これはスポークン・ワードと世界中のブラック・コミュニティの音楽的な伝統を一つの強力なナラティヴに融合させた傑作である。脈々と受け継がれてきた抵抗の物語が聴き手を圧倒し、愛と切迫感を持って、黒人の命のための戦いに勇気を与えている。

By Amaya Garcia · October 01, 2020

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