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<Bandcamp Album of the Day>Threadbare, “Silver Dollar”

バスクラリネット奏者のジェイソン・スタインは、Jason Stein's Locksmith IsidoreJason Stein Quartetの2バンドのリーダーをつとめ、Nature WorkHearts & Mindsといった他のグループの共同リーダーもこなすなど、過去15年にわたってシカゴのアヴァンギャルド・ジャズ・シーンにおいて必要不可欠な役割を果たしてきた。どの集団も違ったサウンドを持っている:Isidoreはよりダークで、より伝統的なジャズの形式を持っているが、Quartetはセロニアス・モンクやチャーリー・“バード”・パーカーの知られざる名曲のカヴァーをやっている。Nature WorkとHearts & Mindsはダウンビート・ジャズとメタルを混ぜ合わせた分厚いサウンドが特徴だ。

このThreadbareでは、スタインはエマーソン・ハントン(ドラム)とベン・クルーズ(ギター)という、共に誉れ高いオベルリン大学に学び、卒業後にシカゴに越してきた若いミュージシャンである二人と共演している。彼らのデビュー・アルバム『Silver Dollar』は、厳密に言えばフリー・ジャズである:しかしアルバムが進んでいくにつれて、Led Zeppelinのような70年代のロック・バンド、あるいはMahavishnu OrchestraやSoft Machineのようなジャズとロックのハイブリッドへの強い親近感を感じてしまう。ある一つの楽器の繊細な演奏で始まる楽曲は、進むにつれてだんだんと火山のようなクレッシェンドを昇り、やがて濃密でくらくらしてしまうようなグルーヴに収束していく。“Threadbare”ではとりわけ、スタインは冒頭でおそらくリードを付けずにクラリネットを吹き、ハントンのイレギュラーなドラム・パターンとクルーズの不気味なギター・コードと合わさって、差し迫った終末の感覚を生み出している。4分が過ぎるころ、楽器隊はなかなか同期しないラテンのリズムパターンに移行する。しかしタイミングが少しずれていても楽曲は盛り上がっている。“24 Mesh Veils”や“Funny Thing Is”と比べてみよう:この二つの曲には形というものがない。後者は敏捷な雰囲気のハード・バップ曲で、ライトなドラムさばきと明るいコードが徐々に狂気を帯びていく。

アルバムの解説によると、このタイトル・トラックはThe Dead Cが2013年に発表したアルバム『Armed Courage』の幕を開ける22分の熱狂の渦、“Armed”からヒントを得たようだ。あの曲が一次的である一方“Silver Dollar”はもっと含みが多いが、ブンブン飛び回るギターのコード、耳障りなクラリネット、そして滝のようになだれ落ちるドラムのフィルなど、似通った部分のあるアップデート版である。Threadbareの楽曲はほとんどメタルに近いところがあるが、編曲はゆったりとしてるために十分ジャズとして認識される。全体的に、『Silver Dollar』はチャレンジングだが、そうする勝ちはある聴取体験だ。エクリペリメンタル・ジャズとハード・ロックの影響を受けながら、その二つを結婚させ、極めて得意なサウンドに着地させているのだ。

By Marcus J. Moore · May 28, 2020

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