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<Bandcamp Album of the Day>Dyani, “Under”

デトロイトを拠点とするプロデューサーDyaniはそのデビュー・フル・アルバム『Under』において、個人的な癒やし、再生、そして希望に満ちた想像といったコンセプトを、スピリチュアルな浄化において古くから用いられてきた水というモチーフを用いて探求している。もっと具体的に言うと、このアルバムはエクスペリメンタル・ジャズ、テクノ、そしてソカコンパスといったカリブ海系のジャンルを通じてプリミティヴな精神性とその復興の意図を手繰り寄せるような、一種の洗礼式のようなものを想定している。

『Under』を通じて、Dyaniは残響するシンセや口笛、クラベスに身を委ねたいと思わせたと思いきや、次の瞬間には叩きつけるようなハイハットとベースで殴りつけてくるような、練りに練られたサウンドスケープによってアルバムの洪水のようなコンセプトを実現している。”Ascension” では焦げるようなパーカッションが、恐ろしくサイレンのようなコーラスで引いたり現れたりする、残響する空気のように軽やかなヴォーカルを下支えしている。アルバムのダンス的なルーツは決して遠ざかることなく、”Mandatory” や ”MOTH” といった脈打つようなトラックで弾けている。1曲目の ”Submerge” の荘厳がありながらも流れるようなバス・クラリネットや ”Agwe” のスタッカートの聴いたフルートのメロディなどに顕著であるが、各楽曲にはその曲を前進させるような大胆さがある。

Dyaniがこの『Under』の構想を始めたのはこの2020年の混沌が本格的に始まる前であったが、この作品が届けられたいま、我々は世界的に機構について考えさせられる局面にいる。未曾有のパンデミックに隠れてはいるが、それでも世界のどこかでは炎と有害な煙が街を飲み込み、ハリケーン、雨、そして水に破壊されれているところもある。『Under』は考え直すこと、そしてルネッサンスについての覚悟のこもった温かな表現であり、我々が今まさに求めているものなのである。

By Ann-Derrick Gaillot · September 22, 2020

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