<Bandcamp Album Of The Day>Jackie Lynn, “Jacqueline”
Jackie Lynnという名前に馴染みながないのであれば、彼女がすでにスターであると思いこんでしまっても仕方がない。彼女の最新作『Jacqueline』で見せてくれる、彼女の自信たっぷりでこの世のすべてを見てきたかのようなトーチ・シンガーとしての振る舞いは、彼女が歌で語る愛と衰退の物語を実際に生き抜いてきた、消耗した歴戦の戦士のような印象を与える。しかしJackie Lynnというのはスターでもなければ、実在する人物ですらない。彼女はアーティスト・Haley Fohr(Circuit Des Yeuxとしても知られる)が作り出したオルター・エゴであり、元々はソロ・プロジェクトだった(2016年のEP『Jackie Lynn』を参照のこと)だったが、Cooper Crain、Rob Fyre、Dan Quinlivan(またの名をBitchin' Bajas)からなるバック・バンドを引っさげて再び形を与えられたものである。
演奏者のキャストが拡大した結果、『Jacqueline』はFohrがEP『Jackie Lynn』で探求していたテーマを単に延長したものではなく、コンセプト面でも音響面でもそれを増幅させたものとなっている。ギミックが効いたストーリーライン(女性の長距離トラックドライバー、大衆酒場を訪れること、人生を生きること、など)はさておき、『Jacqueline』で最も特筆すべきはその音楽的深度である。ここでは異種のサウンドが無理なく、それでいて細かく配置されている。ギラギラ光るようなディスコの薄皮をすくい上げていても、ドリーミーなストリグスの上を漂っていても、鼻にかかるようなメランコリーの中を泳いでいても、もしくは予期しない音調のモダリティに足を突っ込んでいても、だ。ときにこれらは全て一つの楽曲の中で繰り広げられる(“Little Black Dress”)。『Jacqueline』にはパーティーにピッタリのわかりやすいシンセ・スイング・チューンもたくさんあるが(ファンキーな“Diamond Glue”やグラム風の“Sugar Water”を試してみると良い)、楽曲に注入されている多くのアレンジのレイヤーを感じるとるためにはヘッドフォンでの聴取が必須となるような、耳の保養となるような「ステレオ録音」の魔術も十分に収録されている。Fohrの王者のようなヴォーカルは相変わらず光り輝いているが、彼女が詩的で想像力を動員した歌詞を発音すると、スポットライトを一身に浴びて大げさな演技をするカントリー風のセリーヌ・ディオンのように彼女はJackie Lynnの人生の旅路を、ライオンのよな輝きを持つ落ち着いた気品をもって導いてくれる。Pentangle風の“Traveler's Code of Conduct”で彼女は「月が私の生命維持装置」と朗読する。彼女の声は感情で溢れそうになり、ミックスとまさしく溶け合うようだ。あまりにも多くの影響源がこの『Jacqueline』には渦巻いていて、このアルバムを特徴づける何かを厳密に決め打ちするのは難しい。ポップ?アメリカーナ?ネオ・フォーク?シンセウェイヴ?ある意味ではこれら全てであるし、そして我々が生きるメタ・ポスト・モダンの時代に完璧に調和したアメリカ音楽の表現なのである。
By Mariana Timony · April 07, 2020