海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album Of The Day>Clarice Jensen, ”The Experience of Repetition is Death”

チェロ奏者/作曲家のClarice Jensenの音楽は没入感が強烈で、その中で迷子になってしまうことも簡単である。彼女の根気強い「チェロの星座(“Chello Constellations”)」―彼女の初期の楽曲タイトルがそう描写している―は弓で弾かれた弦の波の上を漂っていく。しかしJensenの作品はその他にも多くのレベルを持ち、知的だったり、テーマ的であったり、感情的であったりする。それがよく分かるのが彼女の最新リリース『The Experience of Retetition as Death』である。タイトルがこの作品の深遠なコンセプト的土台を映し出している。ここではJensenは反復されるモチーフを用いずに、我々が持つ死という運命の根源的なサイクルと向き合っている。

アルバムタイトルの中の“death”という言葉はただのメタファーではない。Jensenがこのアルバムの多くを作曲したのは彼女の母親が白血病でなくなる直前のことだった―繰り返されるお見舞い、医師の訪問、病院設備のたてる機械音。特に最後のものは催眠をかけるような“Metastable”に影響を与えていて、Jensenのチェロが高音と低音の間を優しく揺れ動き、その安定した脈拍から離れることなく徐々に激しさを増していく。その激しさは次の曲“Holy Mother”のドラマの中で徐々に増していく。この壮大な曲のタイトルは、同じく壮大であるエベレストのチベット語での呼称から取られたものであるが、この曲のオルガンに似た音色の中にJensen自身の両親への哀歌を感じ取らないでいることは難しい。

このような重層なテーマはJensenが『The Experience of Retetition as Death』を通じて特定の音楽的図案に立ち返ることで強度を増している。それはアルバムの最初と最後が持つ円環構造に顕著である。1曲目の“Daily”は絶えず上昇していくシンプルなコード進行を持ち、最後の“Final”はJensenがスタジオで作ったテープのループからのフレーズが繰り返される―が、その前に彼女はそのテープをわざとしわくちゃにしたり、足で踏んづけたりして音質を下げている。この曲の暗い感じが、Jensenのテーマの純粋で荘厳なヴァージョンをゆっくりと明らかにしていく。彼女が始まりを迎えるこのアルバムの結末の地点でJensenは解決と希望を提示し、死というものが繰り返される運命であるならば、生きることもまたしかりであるとほのめかしている。

By Marc Masters · April 08, 2020

daily.bandcamp.com