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<Bandcamp Album Of The Day>Cold Beat, “Mother”

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coldbeatsf.bandcamp.com

2018年、オークランドのグループCold Beatは『A Simple Reflection』という7曲入りのEurythmicsのカヴァー作をリリースした。ガーゼのようなシンセとフロントウーマン・Hannah Lewの静かでゴスっぽいアルトが印象的な作品であった。そして後にわかったのは、そのプロジェクトはグループの4作目、そしてDFAでは初となるアルバム『Mother』に向けた完璧な前口上だったということだ。『A Simple Reflection』と同じく『Mother』も80年代にインスピレーションを得ていて、『Over Me』や『Into Thin Air』のような初期の作品を特徴づけていた針金のようなギター主役のポスト・パンクを投げ捨て、サウンド的にも手触り的にも『Replicas』や『Dazzle Ships』といったアルバムのラインに並ぶような、ビッグでため息の出るようなロボティック名エレクトロニクスを選好した。ムードが明るくなることもあるが―それを一対一で写し取って証明することは私にはできないが、“Pearls”でのシンセのアルペジオ進行は“Girls Just Wanna Have Fun”にひどく似ている―『Mother』は多くの場合冷たい、アンドロイドのような距離感で作用する。彼女たちは選ばれた試金石を驚くべき効率でバシッと決めていく:“Gloves"のムーディーな閉所恐怖症はどくどくと流れ出るエレクトロニクスと忘却のために生成されたギターのラインとともに恐怖の感覚を作り出す。“Crimes”ではLewは重ねられた幽霊のようなヴォーカルのレイヤーを滑りやすく極寒の飛行機から滝のように落としていく。

見事に作られたメロディック機械仕掛けとは裏腹に、このアルバムの歌詞は全体的に人間についてのものである。主題はそのままタイトルに書かれている:このアルバムはLewが妊娠している時に書かれたもので、世界に新たな生命を連れ出すことの恐怖と歓びと向き合っている。Lewは多くの場合文字通りのアプローチを取ることを拒否している。タイトル・トラックは彼女の新しく生まれた息子の目線から書かれていても良かった―「母よ、彼らはスイッチを押すの?」「母よ、彼らは爆弾を落とすの?」といったように―しかしLew自信が母なる地球に質問を投げかけるというのも可能だ(アルバムのジャケットを見たり、Lewが「母よ、彼らはあなたを許したよ」と歌うのを聴くとこの解釈のほうがしっくり来るように感じる)。アルバム最後の曲“Flat Earth”は同じような二重性をほのめかしている:開始後40秒ほど経つと、いかにも乳母車の上にぶら下がっていそうな音楽機器から流れてくるようなメロディーによく似たシンセのパターンが入ってきて、Lewは周期的な軌道や繰り返されるルーティンについて柔らかに歌い始める―「またいつもと同じ/同じ道路を渡り/タイヤにもっと空気を入れる」―が、それはその慣れに対して肯定的である。それは『Mother』が結論に最も近づいた瞬間である:世界は混沌としていて、その混沌は我々の制御能力を超えている。しかし我々の日常生活の中にはまだ平和や落ち着き、楽しみを感じるひとときががあるのだ。

By J. Edward Keyes · March 02, 2020

Cold Beat, “Mother” | Bandcamp Daily