海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album Of The Day>Statik Selektah & Termanology, “The Quarantine”

世界保健機関がCOVID-19ウイルスの全世界的流行(パンデミック)を宣言し、国中の都市がその感染拡大を抑え込もうと必要な策を講じ始めてから3日が経過したあと、Statik SelektahとTermanology―1982という名義で作品を発表している二人だ―は屋内にいるよう指示された時間を使って新しい作品を作るために使うこと、アルバムのタイトルは『The Quarantine』となり、その制作の過程はライヴ・ストリームされることをアナウンスした。彼らは多くのゲストラッパーたちをスタジオに招き―これは「ソーシャル・ディスタンシング」の厳格な基準が課せられる前のことだった―11時間に渡るレコーディング・セッションを指揮し、残された夜の時間をミキシングとマスタリングに充て、完成した作品を翌日にドロップした。

アルバムのジャケットには制作に関連したと思われる要素が描かれている:サージカルマスク、手袋、手の消毒液、ペン、ライム帳、ショット・グラス、そしてマリファナ。この作品の録音はニューヨークのブルックリンで行われ、カメオ出演しているアーティストの殆どがその近所出身だ。参加しているのはUFO FevMarlon Craft、Nemsといった若手の注目株からTek(Smif 'N Wessun)、Lil Fame(M.O.P.)やGraphといったベテラン勢。全体のトーンが“Pandemic"の冒頭でセットされる。Termはこうラップする。「恐ろしい日々を生きる、死ぬ用意をしながら/顔にはマスク、手は消毒/富めるものたちの声にならない叫び、彼らは被害者となった/大きな驚きではない、お前らがこんがり揚がるところを見たい/この国全体が植民地となったことを忘れないでくれ/奴らがもたらしたのは病気、強姦、略奪だ、生きたまま皮を剥いだ」

すべての曲がここまで直接的ではないものの、パンデミックへの言及は多く見られる。アルバムの中でも突出している“Reletable”ではPro Eraの共同設立者であるCJ Flyが最近の話題をうまく織り交ぜながら複雑な言葉遊びで存在感を表している:「この強制隔離は別に新しいことではない、だって俺は一番イルでいることには慣れっこだから/俺たちを殺そうとするような寄生虫からは距離をおいてきた/お前らがクラブに居る頃俺はベッドでゆったりだ/Rosie Perezみたいな名前のプエルトリコ人の女とな/一体どうしてコロナの拡大が起こったんだ?/どうして俺がマスクなんかすると思う?頭から離れないぜ」

音楽的には、この作品は温かくメロディックなキーボードやピアノのループの上に成り立っていて、Statikは時にそこへなめらかなヴォーカル・サンプルを挟み込んでいる(最も強力な例は“This Too Shall Pass”で彼が重ねて歌っているスキャットである)。このアルバムのリラックスしたヴァイヴから抜け出ているのは“Morphine”だけであり、ここではチョップされたオーケストラル・ヒットの揺らすようなエネルギーとM.O.P.のLil Fameが生み出す騒がしいエネルギーを聴いているものに与える。「俺はやばいスピットをする、誰も否定はできない/お前らはプレッシャーに屈するが、俺はプレッシャーを与える側だ/Spazmatic、俺はイかれてる/お前はどんな人間だ?俺は関わりたくもないね」このような不安定な情勢において、このような自宅待機の命令でさえLil Fameのボースティングを止めることができないという事実には元気づけられるものがある。

By Jordan Commandeur · April 06, 2020

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