海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album Of The Day>Es, “Less of Everything”

 「こんなにも退屈な気分になって/私は一体何を手に入れたのだろうか」ロンドンのシンセ・パンク、EsのMaria Cecilia Tedemalmはデビュー・アルバム『Less of Everything』の1曲目でこう問いかける。Tedemalmの声に抑揚はなく、痛ましいアティテュードに満ちている。情報過多、後期資本主義の腐った構造を支える深く階層化された不公平、永遠に続く仕事のストレス―彼女はこういった物事の状態に怒りを覚えるのに過不足のないエネルギーを持っている。この消耗と切迫感のバランスはEsの楽器隊の勢いによって保たれていく―Flora Wattersの忙しないアナログ・シンセ、Tamsin Leachの鋭く正確なドラミング、Katy Cotterellの丸く弾性のあるベースの音色。

彼女たちのわかりやすい影響元(Bjorkのアナルコ・パンク・プロジェクトであるKukl、そしてドイツの偉大なる3人組Malaria!がまず思い浮かんだ)と同じように、Esのサウンドはゴスに近いものであると説明することが可能であるが、彼女たちが独立している感覚はなく、この3者は高圧線で繋ぎ止められているようだ。Tademalmの歌詞は痛烈で直接的であり、それは個人間の関係の苛立たしさ(“Mystery”)についてだろうが、偏執病的な監視状態(“Off the Rails”)についてだろうが変わらない。CotterellとLeachの間でかわされるリズムの相互作用はシンプルでありながら完成の領域にあり(CotterellはEsのメロディーの大半をも担っている)、Wattersのシンセが騒々しい曲ではアシッドな走り書きを、静かな曲ではその基底を付け加えている。このバンドはどのパートも常に役割が与えられているという点で経済的なバンドである。この困難と混沌の時期にあって非常に賢く、筋肉と骨、真実と本能だけを残して削ぎ落とされた、引き締まった音楽である。

By Jes Skolnik · April 02, 2020

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