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<Bandcamp Album Of The Day>lié, “You Want It Real”

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lievancouver.bandcamp.com

バンクーバーポスト・パンク・トリオのliéは自分たちを「冷たいパンク」と形容する。確かに、彼らのサウンドにはかき混ぜるようなベースラインやコーラスを上回るようなギターの轟音、そして洞窟のような暗さを持ったヴォーカルといったゴスの要素がある。最初の3枚のアルバムにおいてはその冷淡さは強力だったが、最新作『You Want It Real』は怒りのエネルギーで煮えくり返っている。

それはliéがこれまで怒りや苛立ちにかられてこなかったというわけではない。2014年のデビュー・アルバム『CONSENT』に収録された切迫した“Broken”や2018年の『Hounds』の衝撃的な1曲目“Better Sex”が例として挙げられる。そしてそれは彼らが特定のテンプレートを用いて楽曲を作ってきたというわけでもない。しかし『You Want It Real』では彼らは意識的に直接的な歌詞や普通の曲の構造というものから離れようとしている(ギタリスト/ヴォーカリストのAshlee Lukはminimalviolenceの一員であり、ベーシスト/ヴォーカリストのBrittany WestはSigsalyでも演奏をしていて、プレスリリースにはエレクトロニックの作曲法からの影響がliéの新たなアプローチの一部となっていると書かれている)。

liéが抽象的な方向に行くことでそのパワーが霧散してしまうかもしれなかったのだが、そうではなくより活気づいた。1曲目の“Digging in the Desert”は細長いギター・ラインと肘打ちのように鋭いリズム・チェンジによって大量のホコリを蹴り上げる勢いであり、歌詞には毒と敵意が織り込まれている。それは何処を標的にしているのか明らかではないが、矢のように正確に何かを射抜く。逆上したギターのなぐり書きで始まりほとんどフリー・ジャズのように崩壊していく“Bugs”は不安がそのまま音になったような印象を受ける。“Fantasy of Destructive Force”は正義のマスクをかぶった暴力についての直感的な瞑想である:ベースとパーカッションが不協和音を奏でるギターの下で緊張で沸き立っていく。最初からタイトで面白いバンドだったが、liéはついに自分たちらしさを獲得しこれまでの参照地点から広がりを見せ、真に一目を置かれるべき存在になった。

By Jes Skolnik · February 27, 2020

lié, “You Want It Real” | Bandcamp Daily