海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 26: 75位〜71位

Part 25: 80位〜86位

75. DJ Koze: “Pick Up” (2018)

www.youtube.com

DJ Kozeのすごいところは、トレンドに影響されることなく、軽いサイケデリックな霧がかかった温かくファンキーなトラック、切望や希望、悲しみを根源的な人間の痛みとして一つに束ねてしまうようなトラックを作り上げるところにある。彼の2018年作『Knock Knock』の抜きん出たハイライトである“Pick Up”は、そんなKozeらしさを6分半の明滅する至福のディスコ・チューンに濃縮した一曲である。Gladys Knight & the Pipsから取られたヴォーカル・サンプルで曲が作られていることも完璧で、Kozeが優れたクリエイターであると同時に優れたリスナーであることを思い出させてくれる。Knightの声の中に彼は何を聞いたのか、それをこの曲は聞かせてくれる。そして彼についていくうちに我々はその感情が彼だけの特別な場所へたどり着くのを目撃することになる。–Mark Richardson

74. Jack Ü: “Where Are Ü Now” [ft. Justin Bieber] (2015)

www.youtube.com

ポップ・ソングがもたらす変化というのはものすごい。SkrillexとDiploがJack Ü名義でプロデュースした“Where Are Ü Now”がリリースされる前の数年間、このベビーフェイスのスターは子供向けのアイドルからタトゥーまみれのヤンキーへと不器用な変身を遂げている最中で、その数え切れないほどの悪行はほとんど何時間かおきにTMZを賑わせた。彼がレストランの清掃用バケツに小便をしたかと思うと隣人宅に卵を投げつけ、アンネ・フランクの家に行ってはこの悲劇的なホロコーストの犠牲者は「生きる時代が違えばbelieber(=彼のファンの総称)になっていただろうね」とゲストブックに書いてみせた。ある瞬間において、彼は地球上で最も憎まれている「大人こども」だった。

そこでこの曲がリリースされ、全てが変わってしまった。感動的で泣き虫なBieberのデモから始まったこの曲は、ヴォーカルがDiploとSkrillexの手に渡ると彼らはそれをひねり、歪ませ、ピッチを変えることで自分たちのフューチャー・ポップの夢に作り変えた。“Where Are Ü Now”がリリースされたのは2015年で、その時点ではもうEDMのトレードマークとも言えるドロップがアドレナリンの放出装置としての機能をほとんど失ってしまっていた。この変化を感じ取り、かつてはドロップ屋さんだった彼らもそのスタイルを展開させ、DiploとSkrillexは曲がピークに差し掛かると一気に空気を抜いてしまった。まるで宇宙飛行士が急に宇宙に浮かぶかのように。その結果はほとんどうわ言を言うかのような混乱だった。そしてJustin Bieberがどんな存在になりうるか、トップ10ヒットはどんなサウンドたり得るのかということをもう一度想像し直してみせたのだった。–Ryan Dombal

73. Perfume Genius: “Queen” (2014)

www.youtube.com

最初の2枚のアルバムで、Mike HadreasのPerfume Geniusとして空洞化した音楽は、水浸しの録音と真っ黒な主題―うつ、中毒、虐待―にぴったりな葬式のような歌声に寄るところが大きかった。しかしこの“Queen”では彼はそのような残響を取り払い、これにまでになかった断定的な明瞭性を浴びせてくれる。彼はグラム・ロックの飾り立てた側面を用いてゲイ・パニックに対して勝ち誇るように歌った:「私が動けば安全な家族なんていなくなる」彼はシンバルと掛け声の中で叫び、新しい明白な歌詞のアプローチと共にやってきたPerfume Geniusの無作法なサウンドを招き入れる。最高裁判所アメリカ全土での同性結婚を合法化する1年前、Hadreasはホモセクシャリティがほんのチラリと垣間見えただけでショックを受けるような人たちと真っ向から相まみえた。現在のアメリカの高官のポストに付いている人間の中にはそれと同じようなパーソナリティを持った人間がいる。この“Queen”を彼らに対する叫びとしよう、永遠に。–Eric Torres

72. Tyler, the Creator: “Yonkers” (2011)

www.youtube.com

“Yonkers”はまるで教化のようだ―気づかない間に、Tyler, the Creatorはあなたを危険な領域まで連れて行ってしまう。そしてTylerが正規のレーベルから出した最初のリリースであるこの曲はOdd Futureムーヴメントの触媒として機能しL.A.の青年をインターネットの世界からJimmy Falonの背中の上まで連れ出してしまった。それは壊れてしまったデリートキーのようにくっついて離れない、病的で物怖じするようなビートで始まる。そしてすぐに、このラッパーは当時まだミステリアスだった人物たちの名前をドロップしていく―AnwarJasperSyd―そして彼はラップのクリシェを威嚇するような警句へと転覆させていく。この曲に履きを落ち着ける場所も、逃げ出す場所も用意されていない。あなたはこの男が何処に行こうともついて行きたくなってしまう。たとえゴキブリを食べようとも。–Matthew Strauss

71. Adele: “Someone Like You” (2011)

www.youtube.com

『21』を聴く前はストレッチを忘れずに:この作品は人間の苦悩という名のマラソンなのだから。Adeleは彼女のセカンドアルバムにおいて、突然の失恋という苦しみに弱ることなく、それを持って生き延びることに誇りを見出した―自分のひっかくような魂のベルトを、当惑と裏切りのための導管に変えたのだ。作品の中で彼女は自分の歩んできた道に執着し、それをファンタジーに変え、仮設を立てた後、この最後の曲“Someone Like You”で彼女ははるばる遠くへ来たものだ、と振り返る。このバラードは切望の原子爆弾だが、自己憐憫に走ることは許さない。しわがれた声でどっしりと歌うAdeleは、一つひとつの音がまるで振り返りながら前に進むための試練であるかのようで、下部で撹拌されているピアノのアルペジオの中でも滅多にメリスマをゆらゆらとさせることはない。“Someone Like You”を絶望の淵で聴くと、それはライフラインである。その縁の反対側でそれを聴くと、それは果敢に闘った証のメダルように輝く。–Stacey Anderson

Part 27: 70位〜66位(執筆中)