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<Bandcamp Album Of The Day>R.A.P. Ferreira, “purple moonlight pages”

2018年10月1日、ラッパーのmiloはそれまでよく知られていたステージ・ネームを公式にやめる事を宣言した。何年もの間、本名・Rory Ferreiraはその名前を使って多くの献身的なファンを獲得してきた。ファンたちは突然の名前の変更に混乱と悲しみを禁じ得なかった。このアナウンスが彼の音楽活動の終わりを意味すると考えるものもいれば(実際はそうはならなかった)、この変化が彼の楽曲にもたらす影響を考えるものもいた。校舎の質問に対する答えが、彼の新たな名前・R.A.P. Ferreiraでの初作品となるこの『Purple Moonlight Pages』である。この新しい名前は彼の本名―Rory Allen Phillip Derreira―をもじったもので、ここで「R.A.P.」とは「Rhythm & Poetry』の略となっている。The Jefferson Park Boys(ビートメイカーのKenny Segal、ベーシストのMike Parvizi、そしてマルチ奏者のAaron Carmackによるグループ)のプロデュースによるこの『Purple Moonlight Pages』はFerreiraの近作に比べてゆるい作りになっているが、『so the flies don't come』、『who told you to think??!!?!?!?!』、『budding ornithologists are weary of tired analogies』などに負けず噛みごたえのある作品である。

バンドの開けたオーケストレーションとFerreiraの会話調のフロウの間で、『Purple Moonlight Pages』は90年代初期のジャズとラップのハイブリッド、A Tribe Called QuestやDigable Planetsが支配していた頃の風景を思い起こさせる。それでもこれは紛れもなくFerreiraのアルバムであり、入り組んだ言葉遊びがたっぷりで、何処か異質な場所から漂ってきた唯一無二の手紙のようである。“Dust Up”は彼がシカゴに住んでいた頃の一連の日記のようである:「南部でジョーダンを履いていた頃を思い出す、ジョーダンがブルズでプレイしていて俺が外出を許されていなかった頃」 “Leaving Hell”はアンダーグラウンドの芸術性とメインストリームの受容の間のジレンマを紐解いている:詩はクールだと考えられているが、故にアンダーグランドなものである。しかしそこから上に上がっていくにはどうすればいいのか?いつものFerreiraのやり方で、思いがけない場所でその気付きはやってくる:「ある時、俺はガソリンスタンドでうんこをしていたんだ。そしたら壁にこう書いてあった…『人生の目的とはなにか?』そしてそこには誰かが書き残した返答があったんだ。『宇宙の創造主の目となり、耳となり、意識となることだ』と」

アルバムの幕を引く“Masterplan”はPharoah Sandersの1969年のクラシック“Creator Has a Master Plan”をカバーしているのだが、それをあの特徴的なベースラインとフルートの伴奏(Aaron Shawによるもの)に分解している。実験的なヴォーカリストLeon Thomasを完コピするのではなく(Ferreiraは曲の途中でヨーデルを少しやって見せているが)、彼は平穏というものが今ほど貴重なものではなかった頃をに思いを馳せている。「心からそのような精神が戻ってくることを切望している」と彼は歌う。曲がフェードアウトしていってアルバムが終わると、Ferreiraとクルーの笑い声が聞こえる。実は彼らはただふざけたことをいっていただけだったのだ。でも、本当にそうなのだろうか?

By Marcus J. Moore · March 03, 2020

R.A.P. Ferreira, “purple moonlight pages” | Bandcamp Daily