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<Bandcamp Album Of The Day>Rowland S. Howard, “Teenage Snuff Film”

Rowland S. Howardの死は早すぎて(まだ50歳だった)、クールすぎて、そしてこの四角い世界には美しすぎた。2009年の12月30日のことだった。HowardはNick Caveの最初のパンク・プロジェクト、The Boys Next Doorの初期メンバーだった(その後バンドは難しくセクシーなノイズロックバンド、The Birthday Partyとなる)。Caveがこのシーン発の最も有名なミュージシャンであるのは確かだが、Howardも彼と同等の才能を持ったソングライターだった。16歳のときに彼は“Shivers”を書いた(それは当時彼がやっていたバンド、The Young Charlatansに書いたものだった。結局Boys Next Doorの唯一のアルバム『Door Door』に収録された)。彼はそれを自分の最も知られた作品だと思いたくないようだが、ユニークで感動的なポップ・ソングだ。幸い、Howardは感動的なポップ・ソングを腐るほど持っているのだ。

The Birthday Party以降、Howardは次の十年間を似たような志を持ったアーティストとコラボレートすることに費やした:CrimeとThe City Solutionと演奏し、Nikki Suddenのバンドや彼自身のバンドThese Immortal Soulsでも演奏した。彼はまた多くの極めて優れた作品を盟友・Lydia Lunchと制作した。1999年、オーストラリアのレーベル・ShockがHowardのファースト・ソロ・アルバム『Teenage Snuff Film』をリリースした。20年後、この作品がオリジナルのプロデューサー、Lindsay Gravinaによるリマスターが施された2枚組LPとして、Fat Possumから北米で初めて正式にリリースされることになった。

プレイヤー/ソングライターとしてHowardがギター中心のダークな音楽に与えた影響は計り知れないし、メインストリームでは比較的過小評価されている。そんな彼の最高傑作であるとされているのがこの『Teenage Snuff Film』である。SpoonのBritt Danielは今作をお気に入りとしているし、Against Me!Laura Jane Graceはこの作品についてRedditの質問コーナーの中で「オールタイム・フェイヴァレット」だとしている。Yeah Yeah YeahのNick ZinnerはHowardを「自分にとって最も影響力のあるミニマリスト/マキシマリストのギタリスト。彼のコードの響かせ方、暴力的な単音の弾き方は今聴いてもたまらない」と言った。『Teenage Snuff Film』について彼は「このアルバムは僕の演奏に対してと言うよりは僕の人生に影響を与えたと言ってもいい。この作品は完璧でありながら、他の常連の誰とでも気軽にくつろげる煙たいクラブへの入場許可みたいな、そういう秘密の握手のようでもある」とコメントしている。

Mick Harveyをドラム、Beast of BourbonのBrian Hooperをベースに迎え、『Teenage Snuff Film』でのHowardの歌詞とギターの演奏は思い切った率直さが特徴だ。悲痛でありながら控えめな歌い口で、1曲目の“Dead Radio”の中にある「君は僕にとってはタバコのように害がある/でも僕はまだ君を吸い終わっていない」や「僕は物を見分ける能力を失ってしまった/何に火をつけ、何を消化すればいいのかわからない」といったラインはまるで自分を引き裂くようなウィットと押しつぶしてしまうようなペーソスに着地している。アルバムには少数のためのサーヴィスのように思える、ミッドテンポで固められた哀歌たちとして進行するような重さを持つ部分もある。Billy Idolsの“White Wedding”、Jay and The Americansの“She Cried”のShangri-Lasヴァージョンのカヴァーが特にそうだ。アルバムを通して、Howardに寄る際立ってシャープなリフがそれぞれの楽曲に刺繍を施していく。愛おしい“Exit Everything”など数曲では彼のギターの音色は銀色になり少し液状化し、彼のヴォーカルのデリバリーに対して悲しげな雰囲気を醸し出す。

Howardはもう一枚ソロ・アルバムを出した:彼が肝疾患でなくなる2ヶ月半前にリリースされた2009年の厭世的で美しい『Pop Crimes』がそれだ。しかしもし彼が“Shivers”や多くの素晴らしいBirthday Partyの楽曲を書いていなかったとしても、Howardの才能はこの『Teenage Snuff Film』に刻まれていただろう。このリイシューが、よく見過ごされがちな彼の人生とアートに対する少しでも正当な評価につがなることを願う。

By Zachary Lipez · March 04, 2020

Rowland S. Howard, “Teenage Snuff Film” | Bandcamp Daily